「キャー、寝坊しちゃったっ。って…今日何日だっけ? 13日だよね…。あ、なぁんだ土曜じゃん」
8時過ぎ。慌てて部屋を飛び出しそうになって、カレンダーを確認する。よかった。
(土曜日…確か午後からサキと図書館に行く予定ね。ママに言っておかなくっちゃ)
 そんな事を考えていると、シャインが目を覚ました。寝ぼけてるせいで、ちょっと危なっかしくふらふらと飛んでこっちに来る。
 壁にでもぶつかりそう、と思ってたら、案の定開けたままの部屋のドアにゴツン。
「だ、大丈夫? シャイン」
 ドアを開けてるからママに聞こえるとまずいし、小声で訊いたら、「……頭、痛い」だって。
 あたし、とりあえず扉を閉めてから言う。
「寝ぼけてここにぶつかったのよ、ゴツンって」
 えっ、って顔をしたシャインは、慌ててかごの近くに置いてあるあたしのアクセサリーケースの鏡を見に行く。人間なら額にあたるところが、少し赤くなっていた。羽毛に覆われてるのに赤くなるってことはそんだけ派手にぶつかったってことね。
「あたし、午後から図書館行かなきゃいけないんだけど、何かあったらどうしよう?」
 珍しくシャインと離れて行動することになりそうだから、そう言った。シャインがちょっと考え込んでから、はばたいて軽く風を起こす。風に流されるようにして、どこからか丸い腕時計のような物が現われ、立ったままのあたしの手の中に落ちてきた。
「これは、腕時計?」
 左手首にそれを装着しながら訊く。ふたを開けてみて、とシャイン。ふたを開けるとそこには小さなマイクとスピーカーのような物が納まっていた。
「通信機よ。腕時計みたいに見えるから目立たなくてすむと思うわ。持って行って、何かあったら連絡して。すぐ行くから」
 自分用の小さなインカムをあたしに見せながら、誇らしげにシャインが言う。あたしは安心して、図書館に行く用意を整えてから勉強を始めた。
 昼過ぎ。11時に勉強を終えて、シャインにフードをあげてから本棚のマンガを読み漁っていたトコへ階段の手すりを叩く音。
「ご飯よー、降りてらっしゃい」
「…じゃあ、ご飯食べてくる。戻ってきたらサキに連絡しなくちゃ」
あたしは、読みかけのマンガを机において、部屋を出て階下(した)に行く。その途中、さっき安心してたのにまた不安が少しずつ生まれて、胸の中に重石のように貯まりだした。
(なんか嫌な予感がする。敵が来ないといいんだけど…)
 ご飯を食べ終え、カウンターの上においてある電話の子機を掴んでリビングを出る。階段を駆け登り部屋へ戻るとシャインが机の上で待っていた。
  ピッピッピッピッピッピッ
 サキの家に電話をかけて、サキが帰って来てない事を聞く。多分サキに付き合ってたらあたし、自分用に借りられないかも知れないから、先に行く事にした、と伝えて電話を切った。
「……じゃあ、あたし出かけるからね」
「行ってらっしゃい。気をつけて。何かあったらすぐに通信してよね」
 大げさに心配してるシャインにうなずいて、図書館用にしてあるナップザックをしょって部屋を出る。靴を履いたあと「いってきまーすっ」と、一言だけ叫んで玄関から外に出て、開けたドアを閉める。チャリのかごにリュックを放りこんで玄関ポーチに引き出す。
 その後はいつもと同じ。チャりを引いたまま走って道路に出る直前に飛び乗る。そういえば、コレできるの、友達の中にはいないみたいなんだよね…。なんかびっくりなんだけど。(危ないから? ねえ、危ないから??)

☆ ☆ ☆

 公園に隣接する図書館までの距離を測ったことはないけど、家からだいたい40分くらい。市内の大通りをつっきっていくから、まるで小旅行。図書館の近くにある自転車置き場にチャリを止めてカギを抜くと、ナップザックを腕に引っかけて、ここから近い裏側の出入口から入る。
 カウンターのお姉さんに借りていた本を全部渡して、いつも借りてる文庫本の棚の方へ行く。
「あるかな、あれ。こないだ来た時なかったんだっけ」
 本棚の隅から隅まで見てみる。……見当たらない。諦めて今読んでるシリーズの本で前に読んだのをまた借りることにした。
 その時、図書館の中をふっと冷たい風が通りぬけた。変な寒さを覚えたあたしは振り向いてまわりを確認する。
「人が、動かなくなってる…?」
 さっきまでざわざわと聞こえていた人の声やカウンターのパソコンが手続きをしてるピッピッという音が全て止まっていた。ものすごくイヤな感じだ。あたしはすぐ隣にいる人にちょっと触ってみた。
「冷たいっ。固まってて動かないしまるで氷の像みたい。あたしだけが無事みたいね。もしかして……」
 とりあえず通信機を起動させてシャインを呼ぶことにした。本棚の側の壁に寄りかかって通信機のふたを開ける。
「シャイン、シャイン、聞こえる? こちら碧理!」
  ガーッピーッ
と、スピーカーから微かに音が聞こえた後、シャインの声が聞こえてきた。
『こちらシャイン! 何かあったの? 碧理ちゃん』
 あたしは図書館の中の様子をかいつまんで説明した。途中、外を見て、外の人間が無事だということを告げる。
「そう、中で動けるのは碧理ちゃんだけってことね。あたしもすぐ行くから、碧理ちゃんは外で待ってて。サキちゃんが来るかもなんでしょ?」
 忘れてた、サキが来るんだ。サキを危険な目に遭わせないためにも、外で何とか時間を稼がなくちゃ。とりあえず、通信機を切って正面入口から外を見た。運悪くサキが外に立ってる。時間を稼ぐには遅れて来た事にしなきゃいけない。
 サキは正面入口を背にして立っている。なのに、正面入口の扉が閉まっているからか中の異変には気づいてないみたい。いや、もしかすると、あの時すでにサキは来ていて、扉からもれ出たあの風にやられて凍ってるのかもしれない。……どちらにせよ、一旦裏側の入口から外に出て、正面入口にまわらなくちゃいけない。館内の時計を見る。音がしない。時計まで凍りついてるみたいだ。文字盤は1時45分を指してる。多分、あの風がこの建物の中の人を凍らせた時間。その頃、サキが入口にいたとしたら、「先に行ってる」というあたしの伝言を聞いてないのか…。
 敵はまだ館内のどこかにいる。それはなんとなくわかってる。だから音をたてないように、入ってきた入口、開きっぱなしの自動ドアから外に出る。
(なんとしても、ここの人たちを守らなくちゃ。今、戦えるのはあたしだけ)
 とりあえず正面入口にまわってきたあたしは、サキが動かないのを見て、案の定ね、とため息をついた。そこへ、シャインが飛んでくる。
「シャイン!!」
「碧理ちゃん! で、結局どう? 敵は…」
「それが、最初に言ったとおり、あたし以外の人がみんな凍っちゃったから、多分中にいるわ。出てくの見てないし」
 再び裏側入口に回りこみながら言う。出たときと逆の要領で館内に入ると、ひやっとした空気が体を包みこんだ。
「あたし、変身してから階上(うえ)に行ってみるわ。敵はきっと上の階にいるはず」
「わかった。あたしは念のために隠れてこの階にいるわ。…気をつけて」