ジビエの師匠(前半/再会編) | solid alone

ジビエの師匠(前半/再会編)

今日は人間ドック

待合室にある去年のタウン誌に、ボクの街のケーキ屋とクリスマスケーキが載っており
去年の選択に誤りがなかったか、入念にチェックしていた時のことだ
ボクにとって決して忘れられない、特別な名前が耳に入った
「~さま」
正直ドキッとした、全くの無防備状態、まさかここでこの名を聞くとは
その名は長年にわたって何度も何度も思い出す『忘れられない事件』の共犯者であるからに他ならない
呼ばれた方を向くと、はたして彼はそこにいた

彼はボクが小学校4年の担任、当時23歳、長身で血気さかんなヒトだった
別段フレンドリーであるとか熱血タイプではない、でもなにか特別な魅力があった
放課後、ボクと友人たちは特に誘い合わせるでもなく学校から50m程離れた彼のアパートに溜まった
彼が特になんらかの訓示をしてくれるわけでもディスカッションするわけでもない
友人のあるものはTVを見、あるものは先生の蔵書(エッチな本が多かった)を眺め
またあるものは昼寝をしていた
彼はまるでボクたちがいないかのようにふるまっていた

さすがにその状態はマズイと思ったのか、
ある秋の日曜日、彼はみんなに数キロ離れた山中にある公園までサイクリングすることを提案した
もちろん断るわけがない、小学生は自転車があればどこまでも行く

まったく予想していなかった展開ではない、なにか目的があることはうすうすわかっていた
そしてそれは普段の彼の言動からなんとなくは想像は出来ていた
しかし山中において実際に披露された彼の才覚はボクたちを驚愕させ夢中にした
それはジビエ捕獲のためのワナの作成である

実際に彼が作成したワナは非常に巧妙であった
簡単に構成を説明すると、それは浅い落とし穴と、
数個の紐によりカラダを縛り上げるリングで成っており
前者は動物の自重で、後者は木の枝を曲げたバネで駆動される
そして獲物である小動物エサを食べに来ると足元が崩れジャンプ出来なくなる瞬間
いくつものリングが捕獲するシステムだ
彼曰く、落とし穴だけではそのまま獲物を捕獲し続けることは難しい(逃げる)し
後者だけでは動物の反射神経に対する駆動力として木のバネではあまりにもヨワい
それらをインテグレートし、はじめて捕獲出来るシステムが完成するとのことだった

ボクらは興奮しそのシステムを都合3カ所に作成した
そしてまだ見ぬ獲物達に思いをはせながら充実感たっぷりの帰路につき
それらを指導した彼に対し畏敬の念を新たにした
普段のスーツ姿からそこはかとなく出て来た特有のオーラの存在が
これらのワイルドな経験の上に立脚していることを認識したからだ
(後半に続く)