遅くなりましたが、現在バウスシアターで公開中の映画『BORN TO BOOGIE』の初日の様子をお伝えします。まずは、トークショーに先だって上映された、写真家・鋤田正義さん制作のビデオ作品について。
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 この日は鋤田正義さんと河添剛さん(評論家)のトークショーがあった。1972年、T.REXのアメリカ・ツアーに同行して『BORN TO BOOGIE』の完成試写会をニューヨークで体験し、今年4月にはロンドンでDVD完成のプレミア試写にも出席した鋤田さん。T.REXを巡る1972年と2005年という二つの時空へ、私たちをアクセスさせてくれるナビゲーターだ。ただし、このナビゲーターは過剰なガイドをせず、ビデオ作品『TEENAGE DREAM』(2005年版)を黙示録のように見せてくれたのだった。その内容をすべて語るのは難しいが断片的な記憶を辿ってみる。
 T.REXのバラード「TEENAGE DREAM」が流れる中、冒頭に現れるのは1999年に鋤田さんが訪ねたロンドン。マーク・ボランの事故現場とお墓の写真。そこから一気に1972年11月26日へワープ。T.REXの初来日が、空港到着~記者会見~テレビ出演~武道館~レコーディングなどのフォト・コラージュで描かれる。特に後半のライブやレコーディング部分にはロンドンでのフォト・セッションでの演奏シーンが挿入されてリアリティが増幅。そして“ステージで演奏しているT.REXのフィルム映像”が突然現れた! 「マーク・ボラン、動いてる……」 会場を埋め尽くした観客全員の目が釘付けになった瞬間だ。ライブ・サウンドはなく映像のみだが、激しい身のこなしとワイルドな表情、ストラトをタンバリンでこするシーンがあるので曲は「GET IT ON」だろう。マークの衣裳は膨らんだ大きな袖がケープの用に見えるニット風のもので、照明のせいか赤とゴールドに見えた。鋤田さんのT.REX写真集の55ページに同じ衣裳の写真があり、1972年9月12日のボストン公演かもしれない。マークだけでなくミッキー・フィン、スティーヴ・カーリーの姿もアップで捉えている。もう、この世にいない3人のステージ映像……。
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 この映像について突っ込む河添さんを自然体でかわしながら、鋤田さんはふと「ミュージシャンは、同時録音で撮らないと失礼なんだよね、本当は」と、おっしゃいました。当時は映像と音声を一人で録るのは無理だったけれど、本来ミュージシャンの“表現”である演奏シーンをサウンド抜きにしては失礼だ、と。被写体と撮影者というより、表現者同士として相手に敬意を払う鋤田さんの姿勢に感動しました。

http://www.baustheater.com/trex.htm