難解な話になって恐縮だが、以下の論文を紹介したい。
こうした細胞機序の解明により、STAP細胞の謎は、将来、解明され、ESとTSの間を移行する細胞の遺伝子制御状態が説明できるだろう・・・の期待である。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3689995/
Smad2 Is Essential for Maintenance of the Human and Mouse Primed Pluripotent Stem Cell State
PMID: 23649632  J Biol Chem. 2013 Jun 21; 288(25): 18546–18560.
論文タイトル
Smad2は、ヒトおよびマウスの多能性幹細胞状態の維持に必須である

Masayo Sakaki-Yumoto とあるように、作者の名前は女性のようだ。
旧姓を併記した著者名となっている。カリフォルニア大学及び東京大学の所属とのこと。

マウスESより少し分化が進んだマウスエピブラスト細胞は、ヒトのES細胞により近いと考えられているが、それらの細胞を用いて、ES細胞の多能性と分化能がどのような遺伝子制御でコントロールされているかを研究している論文である。

幹細胞というのは、多能性と分化能という相反する細胞機能を共に維持した状態の細胞である。
遺伝子のどこが動くと、細胞が分化を初めて多能性を失っていくのか?
分化をしないで多能性を維持したままの状態で増殖だけするのは、どの遺伝子が強く働いているのか?
などなど・・・について、科学者たちは、膨大な数の遺伝子の転写因子の役割を解明しようと、世界的な競争をしている。

論文内容は、複雑な転写因子のオンパレードとなっている。
転写因子は、多数の組み合わせで働き、遺伝子の発現を上げたり下げたりするたんぱく質だが、それぞれ相互の組み合わせが変わることで遺伝子制御の複雑性は増す。
転写因子の働きは、それぞれの相互関係に依存し、ある時は、右を向き、ある時は逆の左を向く。
固定したDNA構造を軸に、転写因子は生き物のゆらぐ動態を反映している。

上記は2013年論文なので、現在はさらに複雑な様相が解明されているのだろう。
上記論文のさわりを紹介していみたい。
タイトルにあるように、Smad2は、多能性幹細胞状態の維持に必須であるという根拠を示している。

Smad2発現が減ると Cdx2発現が上昇、 Oct4や Nanog 発現が減少し、ひいては多能性の喪失へとつながる細胞分化のストリーである。. Oct4や Nanog が出てくれば、STAPなじみの遺伝子名だ。

研究の目的がアブストラクトの出だしに、以下のように述べられている。青字

ヒト胚性幹細胞およびマウスエピブラスト細胞は、TGF-β/アクチビンシグナル伝達を必要とする。TGF-βおよび/またはアクチビンは、一般に、Smad2およびSmad3の両方を介して転写を調節すると考えられている。しかし、これらの2つのSmadの役割はまだ分かっていないため、その解明にとりくんだ。

Smad 2は、Smad3と異なり、未分化多能性状態を維持する。
ヒトES細胞およびマウスエピブラスト細胞において、Smad2は、自律的BMPシグナル伝達を抑制しつつ、Nanog発現調節プロモーター配列に結合する。 一方、Smad2ダウンレギュレーションにより生じたBMP蛋白の増加は、細胞を栄養外胚葉、中胚葉およびジャームライン細胞系分化へと導く。 Smad2発現減少でCdx2が発現してくるが、Cdx2の増加は、Nanog発現の減少と相俟ってOct4発現を抑制し、細胞の多分化能の喪失を加速させていく。
以上から、Smad2による制御は、マウスおよびヒト多能性幹細胞状態の維持に必須であると言える。(論文アブストラクトから)
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Discussionから
Smad2は、細胞の多能性とNanogを制御する。ヒトESCおよびマウスEpiSCは、Smad2の減少で多能性を失う。 Smad2発現が減ると、細胞は分化し始め、神経外胚葉、中胚葉および栄養外胚葉系統への分化が増加し、内胚葉への分化は減る。

Smad3の場合、Smad3発現減少細胞は、5日目、NanogまたはOct4発現、細胞増殖状況やそのコロニー形態に変化がないが、Smad2発現減少の場合の細胞においては、3つの胚葉からなる奇形腫(テラトーマ)発生につながる変化を示した。
この奇形腫は、対照細胞由来の奇形腫より有意により小さく、中胚葉分化が少なかった。

SMAD3は多能性を維持するが、一方、アクチビンシグナル伝達は、他のシグナル伝達経路の活性化に依存し、逆の効果を示す。より高いAkt活性化状態では、Smad2 / 3を介したアクチビンシグナル伝達が多能性を維持し、低いAkt活性化では、Smad3は中胚葉遺伝子発現を促進するようになる。(Discussionから)