教科書的な説明であるが、T細胞系の前駆細胞は、骨髄でつくられ体内移動により胸腺で成熟する。T前駆細胞CD4陰性CD8陰性細胞ダブルネガティブ細胞には、TCR遺伝子の再構成は検出されないが、分化が進むとTCR遺伝子再構成鎖RAG-1と RAG-2が発現され、TCRβ及びTCRγ遺伝子座のV(D)J組換えが起こる。TCRβ及びTCRγの再構成が起こり、TCRαβ型T細胞となるかTCRγδ型T細胞となる。

参考まで、TCRに関しては、一般ウィキペディアより以下の方が親切説明です。
http://www.ft-patho.net/index.php?T-cell%20receptor(TCR)%20gene

STAP細胞を考える時に大事なポイントは、T細胞にはさまざまな成熟度があるということで、このどれかが生き残りSTAPクラスターを形成するのだろう。

たまたま、STAP論文にTCRをもつSTAP細胞の記載があったことから、STAP細胞はすでに遺伝子が切り取られた細胞から限定的に作られたとの固定観念が生まれたようで、それがその後の攻撃材料を提供したようだ。

すでに、査読の時点からTCR問題はいろいろトラブルを生み出したようだった。
プロトコールエクスチェンジで丹羽氏が見解を出した時も、STAP偽物論がもりあがったとのことだ。つまり、論文発表前から、「STAPはES論」と疑義を持つ関係者の間では調査が進んでいたということだろう。

「あの日」では、小保方氏とネーチャー編集部とのやり取りが書かれているが、査読者の一人に対しては、著者からの回答が不要になったと小保方氏が書いている。
海外査読者からは、すでにES混入が指摘されていたようであるし、キメラは遺伝子欠損T細胞からできているはずだから、そこを証明せよ!との査読者からの要請もあったらしい。
こうした査読者の見解を応援する人たちがいて、ネーチャー編集部は誤った判断をしたとの批判につながったようだ。

私は、当ブログに書いたように、NHKのTCRの説明には、ええっと思った。
一体、誰だ?こんなでたらめをNHKに吹き込んだのは?と、私は思ったのだが、遺伝子欠損TCRを持つ細胞からキメラが(一部でも)できているとの説は、日本で今も信じられていたのだ。
そして、それが、ES論者の論拠のひとつであった。

TCRが切り取られて抗原に対して反応多様性を失った細胞が、生体で生き残って体を作れるのか?

TCRが切り取られていても他の遺伝子部分は、正常遺伝子なのだから、そこからは体をつくれるかも・・・と理論では思える。

しかし、動物の発生分化に必要な遺伝子は、免疫機能のための遺伝子と共通のものが多い。
そこを考えると、反応できないT細胞を持つ動物は、生きて生まれるとは考えにくいと思ったのだ。

TCRを検索している途中で、たまたま、核移植NKT細胞についての論文があった

ここで登場するNKT細胞とは何か?であるが、以下の理研発の解説を読んで欲しい。
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140819_2/

この論文では、普通の核移植動物は免疫異常が多いが、NKT細胞をドナー核に使うと、正常なクローンマウスの機能があると書かれている。

NKT細胞というのは、限られたTCR遺伝子α、β鎖を使うことで知られた細胞である。α遺伝子として使われる遺伝子は限定しており、マウスではVα14-Jα18、ヒトの場合は Vα24-Jα18である。

一方,β 鎖においても通常のT リンパ球と異なり,そのレパト ワにおける使用頻度の偏りが観察され,Vβでは、8,7,2 が主に使用されている。

そして、興味深いことに、このNKT細胞をドナー核とするクローンマウスでは、TCR遺伝子が欠損したままの細胞がマウスを構成しているとのことである。
へえー、そうなんだと、とても興味深い話ではあるが、これはNKT細胞由来のクローンマウスには特殊性があるということなのだろう。

STAPは雑多な脾臓血液系細胞を胚に注入したのだから、細胞種は雑多である。
一方、クローンマウスの場合は単一細胞核である。
つまり、STAPの場合は、全部酸浴後であるとはいえ、遺伝子構造がインタクトで再生能力が高い細胞がいるのだから、そっちが生き残ると考えるのが普通であろう。

もちろん、今回のブログ議論で書いてきたように、遺伝子欠損細胞が体細胞を形成していたら新発見だと思うし、ES説はぶっとぶ。

なぜ、NKT細胞では順応性が高いのか?その理由は研究中なのだろうが、対立遺伝子座が不活化せず、欠損遺伝子を補完するしくみが働くことや、NKT細胞が限定遺伝子を使用することなどが想定されているようである。NKT細胞をクローン化する目的は、腫瘍免疫療法への応用が考えられるという。欠損遺伝子を持つことが、逆に目的が限定できて、生体に有利なのかもしれない。移植多能性細胞のがん化などが防げるのかもしれない。

締めとして丹羽先生の説明を載せる。(根本さん宅から無断借用しました。事後承認をお許しください) 青字

「論文では生後一週間のマウスの脾臓から、まず「CD45」というたんぱく質を指標にリンパ球を集める。そのうち十〜二十%がT細胞で、T細胞の中でも遺伝子に痕跡を持つのは十〜二十%。つまり集めたリンパ球のうち、TCR再構成を持つ細胞は一〜四%しかない。

 集めたリンパ球の集団からSTAP細胞ができる過程を考える。CD45を指標に集めた細胞のおおよそ半分がB細胞、二十%がT細胞、二十%が病原体や死細胞を食べるマクロファージで、それ以外の細胞も若干含まれる。全体の約七十%が酸処理で死に、生き残った三十%の細胞の約半分が初期化されてOCt4が働き出すというのが論文の主張だ。
 注意してほしいのは、STAP細胞の塊は、さまざまな種類の細胞の集団からできており、各種の細胞が混在した性質を残しているということだ。この中には遺伝子に痕跡を持つT細胞がいてもほんの一部に過ぎない。

 さらに、STAP細胞の塊を十〜二十個の細胞の小さな塊に切り分けて受精卵に注入し、キメラマウスを作る。ES細胞での実験の経験から考えると、十〜二十個のSTAP細胞のうち、キメラマウスの体になっていく細胞はおそらく数個程度だ。その数個の中で、遺伝子に痕跡を持つT細胞があるかどうかはかなり確率論的な問題になることは我々も理解していた。
同じことがSTAP幹細胞の樹立過程でも言える。TCR再構成がSTAP幹細胞の段階でどこまで残るかというのは、現在いろいろと問題として指摘されている。三月六日に発表したSTAP細胞作製のプロトコル(実験手技解説)の中で示したように、STAP幹細胞八株にはTCR再構成がなかった。

このような観点から考えると、論文の手法に沿ってリンパ球から初期化がどのように起こるかを検討するのは重要な課題だが、それだけをもってSTAP現象が存在するか否かを厳密に検討することは極めて困難だ。」(p159-160)