前々回、シッダールタ・ムカジー著によるがん4000年の歴史という文庫本を紹介した。
著者は、腫瘍医であり、がん患者治療経験をもつ。
著者は、腫瘍医であり、がん患者治療経験をもつ。
医学史に名を残したいろいろな研究者の気持ちを代弁している部分では、ムカジー医師の想像の部分が含まれているだろう。
ムカジー氏は、(実際の研究者たちは)、この時、こんな風に考えたであろう、感じたであろうと、想像しながら文章をつづっている。
ムカジー氏が実際に接触した研究者もいるだろうし、ムカジー氏が出席した学会での興奮などは、彼の実体験に基づくだろう。
さらに、ムカジー氏は、研究者の気持ちと並行して、目の前のがん患者さんの様子を観察している。
時代ごとのがん治療の限界の中で、生きる希望を必死で求めた人々の様子や心を書き込んできる。
多剤大量療法が期待されていた時代に生きた患者さんたちの記録がある。
患者さんたちは選択の余地がなく、生きたい一心から、挑戦的な治療に応募した。
しかし、こうした挑戦的な治療には、効果を期待する以上の多くの犠牲があった。
又、治療成績を良くしようとしたねつ造データ事件など不幸な出来事もあったりした。
ムカジー氏は、研究者サイドと患者サイドの両面からアプローチして、人々ががんの問題について、知識を深め、根拠ある考え方を学んで欲しいと考えていることがわかる。
マギー・ジェンクスさんは、悪性度の強い乳がんに侵され、当時試みられていた大量で複数の抗がん剤治療を受けていた。
この治療を受けていたマギー・ジェンクス氏は、著書を出している。
彼女が書いたエッセイが「前線からの風景」という書であるとのこと。
一人のがん患者さんが、未知の治療に挑むぎりぎりの心が、次のようにたとえられ、表現されている。
乳がんの女性患者側の不安、不満、とまどい、そしてがん知識が無い事への後悔の念である。
彼女は次のようにつづっている。青字 (178ページ)
マギー・ジェンクスは、がん治療は、真夜中のジャンボジェットの機内で起こされ、パラシュートをつけられ、地図も持たずに見知らぬ風景の中に放り出されるようなものと言っている。
彼女が乗った飛行機の床の下で突然穴が空いた。すると、白衣の人たちがやってきて彼女(マギー)がパラシュートをつけるのに手をかしてくれた。
マギーは次の瞬間に外に放りだされた。
マギーは、降下し、地面に衝突した。
周りを見渡しても、何が敵で、敵はどこで何を企んでいるのかがわからない。
マギー自身は、地図もなく、コンパスもなく、訓練を受けたこともない。
知っておくべきことや、知らずにいるべきこともわかない。
白衣軍団はもう遠くにいて、今は別の人にパラシュートをつけている。
白衣軍団は時々、マギーに手をふるが、たとえ、マギーが尋ねたとしても、白衣軍団には答えがわからない。
徹底的で攻撃的な治療法に憑りつけられていた腫瘍医は、より新しいパラシュートを次々と発明した。
患者さんは治療の副作用で苦しみ、それでも治療成績が思わしくない場合、医師は次候補に心が移り、効果の良い患者への治療に向かってしまった。彼女はその不安と不満を上記のように表現した。
そして、がんについて何も理解することができないマギー氏の心のあせりと後悔が伝わってくる。
しかし、マギー氏の病気を治す方法は、医者には策が無くもはや答えられないのである。
それを患者さんは良くわかっている・・・・。
研究途中のがん、治療効果の判定途上でも、がんの治療は続けられる。それは今も同様だ。
この本には、がんの勉強をしておいてほしいとの著者のメッセージが含まれている。