昨年11月、ネーチャーに統合失調症の特集が組まれたことを、以前のブログ(12月30日)ご紹介しました。

ロンドンに本拠を置く、フリーランスライターのDavid Dobbs氏が、この特集号に統合失調症の記事を書いています。彼の記事は、米国NIHメンタル医療部門の責任者である精神科医Freedman教授の著書の紹介から入ります。Freedman教授は、米国精神神経科学会の大御所で、精神科の有名医学雑誌American Journal of Psychiatry の編集者でもあります。
 
David Dobbs記者は、Freedman教授の著書 “The Madness Within Us” という解説書、(日本語訳は、“私たちにある狂気”程度でしょうか?)の中の女性患者の紹介から、記事が始まります。
 
28歳の女性レイチェルは、3人目の子供を出産したばかりです。その時から、彼女に激しい幻聴がはじまります。年少時の彼女は、普通の聡明な女の子でしたが、精神疾患の兆候はありました。ひきこもりがちな彼女は、引き出しの中に、多数のこだわりグツズを集めるのが好きでした。10代の頃には、突然、音に対して、とても神経質になりました。部屋の冷蔵庫の音や、アポートの外を歩く足音が気になってしかたない様子でした。
 
Freedmanの著者によると、こうした前兆は、後の統合失調症の発症に先立って見られます。しかし、その時点では、正常感情との見分けは難しいと言っています。鑑別が難しい前駆症状には、パラノイア、混迷、過敏、幻覚などの症状があります。
 
統合失調症では、ドーパミン作動性神経の発火しすぎが、関係すると一般に言われています。特に、陽性症状といわれる不穏、幻覚などの症状との関連です。しかし、治療が困難であることからもわかるように、ドーパミン作動性神経の質的量的の関与のレベルは、不明な点が多いです。
とにかく、脳研究者たちは、脳内伝達のしくみを解明し、異常を特異的に調節する物質や手段をさがそうとしています。
 
思春期の脳では、脳内細胞のネットワークが組まれ、シナップス形成や神経突起の枝分かれが進みますが、このネットワーク形成作業において、同時に、剪定作業が行われます。機能しないシナップスや、小枝がきりとられ、強いシナップスに置き変わったりします。この新たな剪定がうまくできないと、神経突起が長く、遠くに伸びてしまいます。統合失調症の脳では、こうした解剖学的な異常がみられます。
 
David Dobbs記者は、彼の記事の中で、新進のピッツバーク大学の精神科医師ルイスを紹介しています。ルイス氏は、大脳の背外側皮質にある神経ニューロンである、錐体細胞(ピラミダール細胞)(空色)に、病気の原因を求めています。大脳の表面にある皮質は、人として最後に進化した高度な知能を生み出す部分ですが、それぞれ役割が異なる多層の構造から成っています。この主要な成分であるピラミダール細胞は、四方八方に、樹状突起や軸索突起を出しています。そして、皮質の多層の中で、横たわるように存在し、長く突起をだして、脳内知的活動の大事な部分を担っています。
 
図を参考にしてください。以前に、このブログでも紹介しています。
http://blogs.yahoo.co.jp/solid_1069/1063012.html
ウキペディアでは
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%B9%E7%8A%B6%E7%AA%81%E8%B5%B7

脳の皮質のピラミダール細胞にからみつくように、インターニューロンと呼ばれるシャンデリア細胞(緑)があります。シャンデリア細胞は、ニューロンの補助役を担っていてGABA作動性(抑制性)の細胞です。抑制性とは、神経細胞の発火をおさえて、神経伝達しなくするための機能です。GABA作動性の細胞が、ピラミダール細胞の行き過ぎ(発火しすぎ)を、抑えているのです。
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ルイスによると、思春期に、シャンデリア細胞がピラミダール細胞をじょうずにコントロールできないことが、統合失調症の発症につながるのではないかと推論しています。
 
ルイスは、シャンデリア細胞のGABA受容体を刺激する新薬(研究中で未発売)を、統合失調症の人に試みたところ、作業記憶の改善が見られたと言います。
 
統合失調症では、皮質下(皮質の下にある脳組織、発生学的には、皮質より古い脳)に存在する、ドーパミン作動細胞の異常の可能性も指摘されています。
但し、こうした説に対しては、細胞、分子、伝達物質などのさらなる研究の裏づけが必要なようです。