マイクロRNAの紹介が続きます。マイクロRNAは、メッセンジャーRNAに結合して、メッセンジャーRNAの働きを止める短いRNA物質です。がんと神経系の病気について、書きました。今回は、肺線維症(IPF)という病気における、マイクロRNAを紹介します。病気が起きてくるには、それなりの理由があります。なんらかの理由により、生体の調節が狂ってしまうのです。
 
肺線維症(IPF)は、肺の空気袋である肺胞の壁やその周囲が厚くなり、肺が固くなる病気です。(肺胞は、酸素と二酸化炭素の交換をする、いわゆる呼吸をおこなうところです)。細胞間物資が増加すると、肺胞という薄い上皮細胞で囲まれている部分での酸素交換ができなくなります。この病気にも、マイクロRNAの失調が見いだされました。

なぜ、肺が固くなっていくのかと言いますと、本来、上皮細胞となるはずの細胞が、別の種類である間質系の細胞に変化してしまうからです。その結果、肺胞から酸素を体内にとりこめなくなり、血中酸素が低下してしまします。次に何が起きるかと言うと、個体の死です。つまり、致死的な病気なんです。治療法は確立しておらず、現代の難病です。

今回の論文は、IPFにおけるマイクロRNAの役割を調べたものです。トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)は、線維化の方向へ働く主要な物質です。TGF-βの本来の役割は、傷をうけた体を修復するために働く物質です。リモデリングと呼ばれる、体の作り直しです。病気にするための物質ではないのですが、調整が狂うと、この物質が増加して暴走します。
 
肺線維症は、めずらしい病気ですが、日常的に喘息などでも、このTGF-βが働き過ぎる人では、喘息は重くなりがちです。又、カビなどを吸いこんで起きる肺炎は、間質性肺炎とよばれ、このTGF-βが増加しています。SMADは、TGF-βを調節する転写因子で、多数の種類があり、TGF-β蛋白合成を進めたり、抑えたりします。生体は、TGF-βが適切に維持されるように、調節されています。つまり、生体が傷を受けた時に、傷の部分を被いかぶせて、うまく治るように働いているのです。let-7dは、肺で働く、マイクロRNAの1種です。
 
今回、紹介する論文です。
Am J Respir Crit Care Med. 2010 Jul 15;182(2):220-9. 

要約
10個の正常肺組織と、10個のIPF組織からとりだしたRNAについて調べました。let-7dのプロモーターに、SMAD3が結合するのを確かめました。let-7dを含む18個のマイクロRNAは、IPFで減少していました。 トランスフォーミング成長因子(TGF-β)が増加すると、let-7dが低下しました。SMAD3は、let-7dのプロモーターに結合して、let-7dを低下させました。

let-7dを含むマイクロRNAが低下すると、細胞間蛋白の(N-カドヘリン-2、ビメンチン、アルファ-平滑筋アクチンACTA2、HMGA2(線維化サイトカイン)、SFTPC(肺に関連する界面活性剤タンパク質C)が増加しました。これは、肺胞上皮細胞系から間質系の細胞へと、細胞が変化する事を示すものである。これらの変化に伴い、肺機能が低下した。肺線維症において、マイクロRNAに属するlet-7dが減り、上皮細胞の消失と変質が起きていました。
肺線維症の発症には、let-7dのダウンレギュレーションが重要と考えられました。PMID: 20395557