このところ、シリーズで、放射線障害とがんに関する論文を紹介しています。この関連は、一言では言えない事が多く、複数の論文に触れると、何か見れるかもしれません。関連評価の難しさです。
原爆は、日本人にとって大変な出来事でしたが、この時の放射線障害の程度は、世界の基準値になっています。日本人のデータは、短期及び長期において、人が放射線から、どのような影響を受けのか評価の根拠となっています。
日本では、1957年に原爆被害者における法律が本格的に整備され、被爆者の長期影響に関する医学的研究が行われてきました。今回は、複数のがんが、同じ人に生じた場合のデータです。
体のどこかの臓器組織から1回目のがんが発症し、それとはまったく別の臓器(組織)から、異なるがんが発症することがあります。顕微鏡を用いた組織学的検査をすれば、別物のがんであることがわかります。例えば、乳がんと胃がんとか、がん発生源が異なるわけです。
原爆以外にも、初回のがんで放射線治療を受けた後、別のがんが発生することがあります。なんとも、やりきれない話ですが、実際には、そうした現実があります。今回は、複数がんの発症と、放射線の関係について、2008年発表された成績です。長崎大学の追跡調査で1968年から始まっています。原爆による影響を観察している集団は、女性54915人、男性36975人です。
被爆者における複数の異なるガンの発症と、その他の各種因子(爆心からの距離、被ばく年齢など)が、どのように関連するかを調べました。1968年から1999年まで、観察中の人たちから、がんと診断された人の数は7572人でした。そのうち、複数のがんの発症は511人でした。92.6%の人は、2か所のがん、 5.7%の人が3か所でした。2回目のがんは、男女共50歳以上で多く生じています。10万人当たりの換算では、複数がんは、1年につき27.6人でした。男女別では、女性242人(10万人当たり21人)、男性269人(10万人当たり38.3人 )でした。2回目のがんの臓器別では、男女共、大腸、胃、肺、直腸、が最も多く、次は、女性では乳房と皮膚、男性では前立腺、肝臓、尿路となっていました。1回目のがんから、2回目のがんまでの年数は、1年以内が、女性12.3%、男性19.4%、さらに、5年以内は、女性27.8%、男性36.9%でした。
2回目のがんは、爆心から近い距離出被ばくした人に発症が多くなり、爆心からの距離が離れると、複数がんは減少しました。2回目がんの発症は、1km以内では、10万人当たり57人、1.6-2.0kmでは26人、3km以上では24.7人でした。1.0kmにつき0.89倍となりました(95%の信頼区間、0.84-0.94)。
被ばく時に加齢していた人の方が、複数がんは減少しました。2回目のがんの発症は、年齢が1年増えると、0.91倍となりました( 95%の信頼区間、0.90-0.92)。爆心地からの距離効果は、2回目のがんで、はっきりと出ました。60年以上にわたる長期の観察で、傾向がわかってきました。Cancer Sci. 2008 Jan;99(1):87-92. PMID: 17979995