以前のブログ(1月21日)に触れましたが、遺伝子異常とがんについて書きます。

BRCA1遺伝子は、13番染色体に存在している遺伝子で、BRCA蛋白をつくります。この物質は、遺伝子を守る働きをします。同様に、17番染色体に、BRCA2蛋白をつくる遺伝子があります。女性の中には、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子の形(塩基の並び)が他の人と同じ形でなく、変化している人(遺伝子異常を持つ人)がいます。こうした人をキャリアと呼びます。キャリアの女性は、自分の遺伝子を守る能力が低くなるので、乳がんや卵巣がんを発症しやすくなります。遺伝子は親から引き継ぐので、家系的にがんになりやすい人たちがいるわけです。BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子は、とても大事な遺伝子なので、現在、これらの遺伝子異常を持つかどうかを、検査で調べることができます。
 
がんの発症は、さまざまな素因、環境因子の影響を受けます。その中でも、BRCA1、BRCA2は、がんとの関係がよくわかっている遺伝子ということになります。今後も、がんと関連する遺伝子異常は、いろいろ発見されていくと思います。がんに関連する多数の因子の中で、遺伝子は塩基の配列の違いを証明できるため、がんとの因果関係を具体的に示すことができます。

それでは、実際にどのようなデータがあるのか、ここに少し紹介しましょう。
がんが多発する家系の人を集めて、遺伝子を調べる方法があります。Miyoshiらは、日本の乳がん多発する家系の女性の遺伝子を調べました、そして、BRCA1遺伝子異常を13.3%、BRCA2遺伝子異常を18.6%に見出しました。遺伝子異常の内容(塩基の並び方にどのような異常が入っているのか?)によっても、がんの発症危険度は違ってきます。例えば、BRCA1遺伝子については、コドン 63(3塩基の並びをコドンと呼ぶ)のナンセンスミューテイション(変化の種類につけられた名)、BRCA2 遺伝子では4塩基脱落などがある人で、がんが発症しやすくなると報告されています。PubMed  11977534に詳細があります。
彼らによると、この家系の女性たちで遺伝子異常のある女性は、生涯乳がん発症率が80%、卵巣がん発症率が40%とのデータが紹介されています。
 
 
他の研究を書きます。日本人のBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子と病気との関係を調べた成績です。この成績では、遺伝子異常の確率が、がんの条件で上昇することが示されています。つまり、早期のがん発症で、がんの家族歴がある人では、遺伝子の影響が大きいことが示されています。
この日本人データでは、本人に乳がんがあり、一等身(親、兄弟、子供)にも、乳がん、卵巣がんがある人たちです。この人たちを対象に、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子を
調べました。BRCA1遺伝子異常は、13.3%の女性にみられ、BRCA2遺伝子異常は18.6%の女性に見出されました。さらに条件をしぼり、どのようなタイプの女性に、BRCA1遺伝子、又はBRCA2遺伝子遺伝子に異常があるかを調べました。その人たちは、次のようでした。

家族に3人以上の乳がんがいる女性たちでは、遺伝子異常が36%の確率でみつかる。
40歳以下で乳がん発症した女性たちでは、遺伝子異常は8%にみられる。
両側乳がんになった女性たちでは、遺伝子異常が40%の確率で見つかる。
つまり、すでに乳がんの人で、かつ遺伝子異常も持ち合わしている人はどのようなタイプかは、
家族に乳がんが多い人、乳がんが若年で発症した人、両側の乳がんになった人でした。遺伝子異常の種類によって、病気の予後が良いかなどにも、影響を与えます。PMID: 11149425
 
 
他のデータです。
最近報告された日本人を対象にした研究結果によると、BRCA1/2遺伝子の変異が検出されたのは約27%(36/135症例)で、他の国々での報告と同程度以上でした。
BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子のどちらかに遺伝子変異がある女性と、変異がない女性を比較すると、以下のような傾向でした(海外データ)。
 
BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子に異常を持つ人は、持たない人に比べて
乳がんや卵巣がんを若い年齢で発症しやすい。
70歳までに乳がんを発症する割合は36~85%
(別の海外データでは、90歳までに6割というのもあり、人種、条件により数値はばらつく)
70歳までに卵巣がんを発症する割合は、16~60%
一方の乳房から、他方の乳房のがんになる確率は、30-40% 
乳がんから10年以内に卵巣がんを発症する確率が高い。
もっと、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子について知りたい方は、次のホームページにくわしいです。http://www.familial-brca.jp/index.html
 
 
カナダの疫学のデータを紹介します。これは、遺伝子異常をもつ女性が、妊娠・出産することにより、がんの発症にどのような影響があるかを、15年間にわたり観察したものです。
 
1,260人づつの遺伝子異常の無いコントロール群と、BRCA1、またはBRCA2遺伝子に異常を持つ人を集めました。15年間、その人たちから、乳がんが発症してくるかを調べました。BRCA1の異常を持つ人と、持たない人において、経産婦(出産したことのある人)と、非経産婦で、乳がんの発症違いはありませんでした(非経産婦1とすると、経産婦0.94、という数値で、意味は経産婦の発がんは6%少ない)。しかし、4人以上の子供をもつ人で比較すると、BRCA1異常を持つ人では、乳がんのリスクが38%減少しました(子供を持たない人を1とすると、4人以上の子供をもつ人は乳がんに発症率が0.62になるという意味です。つまり、子供を4人以上もつと、乳がんの発症が少なくなるというデータです。
一方、BRCA2に関しては、この物質の遺伝子異常を持つ人では、2人以上の子供をもつと、乳がんの発症が、1.5倍になりました。そして、子どもが一人増えるごとに、17%増加しました。出産後の2年間は、乳がんリスクが上昇しましたが、5年たつと、その上昇程度が下がりました。PMID: 15986445 
つまり、BRCA2遺伝子は、妊娠中に大量の女性ホルモンが触れることにより、産後に乳がんのリスクが高まるという結果でした。
 
 
他のデータです。
BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子異常を持つ人は、糖尿病になる確率も高くなるとする論文があります。BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子異常を持つ女性6052人を、15年間、追跡した。15年間に糖尿病を発症するりすくは2倍(信頼区間1.4-2.8倍)であった。PubMed 21069710