女性ホルモンも男性ホルモンも、生命を維持するためにでる男女共通の物質です。ただ、その量と種類が、男女で違いますが、構造的にはコレステロールからつくられるステロイドと同じ仲間の物質です。アロマターゼと呼ばれる酵素で、男性ホルモンからエストロゲンが作られます。また、男性・女性ホルモンは、体内の全臓器で、感じ取っています。生命を維持する物質であり、単に男性であるため、女性であるためのホルモンというわけではありません。女性ホルモンが大量に存在する時、女性は妊娠・出産が可能です。
閉経前なのに、たまたま調べた女性ホルモンがすごく低値で、ショックをうけたなどとの書き込みをネットで見たりします。血液中の数値は、個人差が大きく、実際に体内で働いているホルモンの働きを必ずしも反映するものではありません。体内では、血液中のホルモン濃度だけでなく、ホルモンを感じ取る部分があり、そこに個人差があります。女性ホルモンが正しく働いているかどうかは、月経が正常であるかどうかで判断します。世の中には、卵巣や子宮の働きが悪く、月経が少ない人がいます。こうした方では、ホルモンが十分に出ていない人なので、妊娠を望む場合は、治療の対象になります。医学情報の中には、女性ホルモンの作用を拡大評価した記事があります。つまり、女性がうつになったり、ストレスに弱くなったりを、皆、女性ホルモンの低下に結びつける解説です。海外でも通用するような医学情報には、女性のメンタルトラブルと、女性ホルモンの関係は、不明と書かれているものが多いです。これが、世界標準の知識なので、メンタルトラブルと女性ホルモンを結びつけるためには、エビデンスは不十分であり、新たな臨床データが必要になるでしょう。
女性ホルモンは、女性の健康を多角的に支えていると思いますが、あくまで他のメインの物質と共同して、機能しているという意味です。そして、閉経による女性ホルモンの低下があっても、生体は調整されていて、健康は保たれるのです。メンタルトラブルなどは、社会的要因の方がずっと大きいと思います。女性は、出産・妊娠ができない年齢になってしまったとの感傷(後悔?)が影響します。若さが称賛され、若くなければ意味がないという世界的な価値観のためです。女性のメンタルは、社会環境の影響を大きく受けますが、更年期は、うつのみでなく、統合失調症も起きやすいのです。メンタルなトラブルは、脳内伝達物質の影響が大きく、不安や焦燥が高まるわけですが、女性ホルモンの関与を証明する研究は難しいです。脳内には、メンタルトラブルとの直接的に関連がありそうな物質は他にありますし、2次的、3次的な物質まで、詳細に解明されているわけではありません。女性ホルモンの直接な関与が薄い証拠として、メンタルトラブルに、女性ホルモンの治療効果が低いという事実があります。骨代謝は、男性ホルモン、女性ホルモンの関与がありますが、その他にも副甲状腺ホルモン、甲状腺ホルモンからのホルモンなど、多種・多様なホルモン物質やビタミンが関与します。女性ホルモンは、男性ホルモン並みには、骨を強くしたりしてはくれません。
元々、無月経、月経過小など病気の場合を除き、閉経前には、女性ホルモン療法はやりません。それは、閉経前に、正常周期の女性では、必要な量の女性ホルモンは十分に出ていると判断されるからです。正常周期の方で、何か体の症状をかかえている女性に対し、プチ更年期で女性ホルモンが低いことが病気の原因であるという説明は、理論的ではないのです。閉経後の女性でも、メンタルトラブルへのホルモン補充療法による改善効果はあまり期待できません。中には、とてもメンタルが良くなったと自覚する方はいるでしょうが、全体として、その割合は低いわけです。ホルモン補充療法の治療効果は、データの取り方でずい分、違ってきます。月経前症候群なども、女性ホルモンの治療効果は期待できず、症状が月経前からかなり長くある方では、それは、月経前症候群ではないのです。体の不調は、他の原因を見つけた方が、解決に向かいやすいと思います。
先程、ホルモンを感じ取る受容体の話しをしました。エストロゲンを感じ取る受容体は、2種類あり、α型受容体(ERα) とβ型受容体(ERβ)があります。この蛋白質の量と機能によって、ホルモンの効果が変化します。これが、ホルモン効果を、血中濃度単独では、推し量れない理由です。DNA塩基配列の特定部位(DNA hormone response elementsと呼ばれる)で、受容体蛋白量の合成が調整されていますが、転写の際、多くの物質のコントロールを受けています。DNAとの結合を促進する因子(200種類位)、抑制する因子(40種類位)などの影響を受けます。α型受容体(ERα) とβ型受容体(ERβ)を作り出す遺伝子は、機能解析が難しくて、DNA構造解析と、受容体蛋白合成の関係が、まだ、十分にわかっていません。いずれにしろ、エストロゲンが細胞内にとりこまれ、細胞質から核内に入り、α型受容体(ERα) とβ型受容体(ERβ)に結合し、DNA遺伝子構造を変化させます。結合後に、ホルモン関連物質が合成されます。その結果、ホルモン作用が発揮されます。
元々、日本では、ホルモン補充療法をやる人が少なく、“ホルモン恐怖”が根強いです。外国では、若さに取り組む姿勢が積極的ですので、最盛期は閉経女性の半分がホルモン補充療法をうけていたという北欧のデータがあります。日本のホルモン補充療法治療率は、2-3%ですし、看護職などで最も高い時は、10%位はあったようです。今は、海外では、2002年のWHIの発表以後に、治療を受けている人が、1/2-1/3は減ったということです。その理由は、ホルモン補充療法は、乳がんを増やし、乳がん死も増やすことがわかったことが大きいと思います。結果を発表した米国のWHIと呼ばれる組織は、ホルモン補充療法が、最初の予想を超えるネガティブ(不利益な)結果であったとコメントしてしますが、日本では、WHIの反省傾向の言葉のままに、情報を伝えることが少ないのです。日本では、WHIの成績に対する批判的な見解も多いです。海外論文では、驚くべき副作用と評されたりしていてもです。当初、閉経後の女性ホルモン療法は、心血管系、認知機能の改善効果など、人類は、バラ色の夢をみていましたが、すべてマイナスの結果となりました。心血管系に関しては、エストロゲンが血管拡張効果を持つことから、ホルモン補充療法は女性に有利と期待されました。しかし、血液凝固性の増加というステロイド系ホルモンの特性が、結局、脳梗塞、心筋梗塞という致死的な疾患を増加させてしまいました。特に、加齢した女性には不利に働いてしまうことは明らかでした。最近、外国では、長期の予後も判明し、肺がん死も増えると言うデータもでました。欧米では、治療をうける人自身で、英語のWHI報告にアクセスし、治療継続を判断するようです。日本は、治療を受ける女性自身で考えると言う医療環境がまだ、十分に確立しておらず、今後の課題です。続く