知ってる方も多いであろう、小説家さん。
去年の年末あたりに「僕のメジャースプーン」の文庫本をたまたま手にとったのが初めでした。
その時は、好きな作家である森見登美彦と万城目学の小説も当然全部読んだ後で、適当な作家をぱらぱらと買って読んではみるものの、いまいちピンとくるものに出会えず、苛々としていた時でもありました。
帰って読み始めると、ああもう読む手が止まらない。
なんだか目からしょっぱい水が出てくる。
ということで、だだはまりになって今に至ります(笑)
実は年末からこの人の本しか読んでないという事態にまで発展しています。
学生の身分なので、教科書学習とテスト勉強とレポート作成時以外の読書の時間は、全てこの人の小説。
「僕の~」の最後の解説に、ストーリーとリンクしてる別の小説が紹介してあったので、それ以降は、
「名前探しの放課後(上)(下)」
「子どもたちは夜と遊ぶ(上)(下)」
「ツナグ」
と読んで、今日、
「冷たい校舎の時は止まる(上)(下)」
を買ってきました。
かねてよりファンの方からすれば、このにわかファンの読書の順番は「なんだそりゃ」と仰りたいところでしょうが、ご勘弁いただければと思います。
ちなみに、これまで読んだ本の感想だけ。
(あらすじはネットで調べてください:ネタバレはしてないつもりです)
「僕のメジャースプーン」:文庫本
小学生があれだけの事を考えられないよな~という色気もくそも無い印象はさておき、初めに手に取った一冊としてはよかったと思います。色々読んで分かりましたが、ここからなら、特にリンクしてる「名前探しの放課後」に通じる概念にも予備知識を持って臨めました。罪と罰、言葉遊び、エゴ、友情、愛情、様々な切り口があって、自分だったらどうするだろうという立場に立っても考えられる作品でした。「僕」とふみちゃんへの感情移入全開で、読んでる途中は憤りもかなりあったのに、それが最後になって反動のように泣きの感情になってしまうところに「やられたよ」という思いがありました。愛情の定義を求めている方に、一つの答えを与えられるんじゃないかという、おすすめの一冊。2日間で読みました。
「名前探しの放課後(上)(下)」:文庫本
まだ辻村作品の特徴を掴みきれてない頃に読んだ作品なんですが、途中に張ってある伏線っぽい文章が何だか気持ち悪いなあと思いながら、猜疑心満点で読みました(笑)でも最後にはやっぱり騙されてしまう悔しい結果に…僕の推理力は微々たるものですが、完璧にやられた感があります。「僕の~」が社会派的側面を持った作品だったのに対して、こちらは比較的エンターテインメント的だなと感じました。文学作品の面白さが詰まった作品ですが、注意して読むことのできる人でないとせっかくの楽しさも半減してしまうかもしれません。あと、やはり最低でも「僕の~」を読んでからでないと、最後で「?」が頭に点灯する可能性が大です。上下巻で2日間で読みました。
「子どもたちは夜と遊ぶ(上)(下)」:文庫本
辻村作品の中では比較的昔の作品になるんでしょうか。これも念入りな伏線を張ったミステリだったなと思います。辻村作品はやはりご本人が教育学部出身だけあって、教育に通じる諸問題や、社会的概念の要素が大きく取り込まれていると思うんですが、家庭内での偏愛や虐待への警鐘とも言える作品でしょう。読むにあたっては、個人的には一番精神的に疲労した作品です(笑)これは「僕の~」の後に読んだ作品ですが、特に差し支えなく物語りは読めました。ただ、上記2作品より前に読んでおくと、よりリンク部分の繋がりは意識できたかもしれません。上下巻で3日間で読みました。
「ツナグ」:ハードカバー
一番さくさく読めました。ただ、もし読まれる方が実際にそれまでの人生の中で大事な方を亡くされていて、尚その死に対しての心の整理がついていないなら、一つの軽いモニュメント的作品になりうるんじゃないかと思います。最終編には『使者(=ツナグ)』の両親の死の真相を持ってきていますが、死あるいは生の意味や、残された者の感情等、主に伝えたかったと思しきことは、それまでの4編で表したかったんじゃないかと思います。個人的には第4編の「待ち人の心得」がぐっさり刺さりました。『使者』のようなことが現実にあったらと思わずにはいられないけれど、そう思うことによって改めて死者の存在を認識できたりもするんじゃないでしょうか。「第二の死(=故人が忘れられてしまうこと)」の予防線の一冊としてもいかがでしょうか。余談ですが、森見登美彦の「ペンギン・ハイウェイ」を思い出しました。もちろん、内容や表現が似てるとかそういうことじゃなく、「あともう一度だけでも、あの人に会えたら」あるいは「会いたい」といった概念の部分でです。尤も、この感情はアバウトすぎてあんまり理解されるものではないかもしれませんが(笑)1日で読みました。
辻村作品の通念として存在するのは、先ほども挙げましたが主には教育に関連する問題についてですが、いくつかの言葉で表すとするなら、「罪と罰」「人が消費される社会」「エゴイズム」といったあたりに集約されるんじゃないかと思います。
私的な感情ではありますが、レビューなどを見ていても、この人の小説で多くの人が涙しているのは、やはりそこに誰しもが経験として持っている人間的な感情があるからであり、切実にストーリーがこうあってほしいと願えるからだと思います。
つまり、ありきたりな表現で恐縮ですが、心をわしづかみにする、ストレートに読者を取り込む力があるのだと思います。
文章は口語も多いように感じますし、取り立てて難しい単語もあったようには思いませんので、読みやすいはずです。
機会があれば、手にとって見てください。
長くなりましたが、もしこれから何か読みたいなと思ってる方の参考になれば幸いです。