こうして
私自身、浮上出来無い程
気持ちが落ち込んで
これ以上、下には行けない
地点迄に到達すると
同時に今度は
怒り狂った劫火の様な
憤怒や憎悪の念が
一気に上りつめたのでした。

すると
この、まるで嵐の様に
上下で荒れ狂わんばかりと
して居る私の心と頭の中は
暫く存分に荒れ狂った後で
不思議な事に、突然
台風の目の中に突入した様に
次第に穏やかさを
取り戻しながら、冷静さも
戻って来たのでした。

私が自分自身の
心の落ち着きを取り戻して
来るに従って、冷静にこの事態を
分析出来る様になると
先程の『仲間の裏切り』
と云う行為自体が
どうしても腑に落ちず
また、私自身も完全には
合点が行がなかったのでした。

それは
そのパーティーに行った
仲間の子達の事を私自身が
よく知って居る間柄で
現に卯月先生に呼び出されて
ここに来る前も、皆んなは
私が事実無根で『濡れ衣』
を着せられて居る事に
まるで自分達の事の様に憤慨し
更には物凄く驚いて
同情もして居たのでした。

そして私自身
冷静になってこの件に関わる
彼女達のあらゆる事……
これまでの態度や事柄、様子
などを思い返してみても
それらからは全く違和感も
ましてや嘘や偽りさえも
感じる事が無かったからでした。

そこで私は
卯月先生の云う『証人』が
一体、誰なのかと云う事さえ
突き止める事が出来れば
直ぐにこの問題は解決すると思い
その事ばかり考えて居ました。

「天田、これで分かっただろう?
……そう云うワケで、お前が
『パーティーには行って無い』
と幾ら言い張ったところで、
どうしようも無い事なんだから、
いい加減、諦めて
観念した方がいいぞ。
なんたって、こっちには
証人が居るんだからな!」

「……そうですか……
私が何を言っても
信じて貰え無いなら、
しょうが無いですね……。」

「……そうか、やっと観念したか……
じゃあ、お前は行ったんだな!」

「ぇ?……そんな事、ワザワザ私に
聞く必要は有りませんよ。
……先生の思った様に
その書類にでも何でも
好きな様に書いて下さいよ。」

「いや、だから、
そんな事は出来んのだ。
ちゃんと、こうして報告書に
書かなければならんのだからな。」

「…ふ〜ん……そうでしたね。」

「うむ、そうだ。
……天田、それじゃあ、改めて……
お前はパーティーに行ったんだな!」

「ぅ〜ん、………………。」

卯月先生に再度、確認されても
私は躊躇したまま、生半可な
返事をして居ました。

「おい、いい加減に、
ちゃんと答えろ、天田!」

「……う〜ん……。
それじゃぁ、先生、
私が答える代わりに、
その証人が誰だか、
教えて貰えますか ?
先生が教えてくれたら、
私も先生が納得する様に
ちゃんと答えますから…!」

こうして私は
自分の冤罪の自白と引き換えに
『証人』を聞き出すと云う
まるで『捨て身技』の様な
何とも無謀な事を
思い付いたのでした。

それに
卯月先生が言って居た
『証人が居る』と云うのが
事実であれば、尚更
私は何としても、そんな偽りの
証言をした仲間の子達の心情や
本音、本心を知りたいと
本気で思って居たのでした。

しかし
私が自白と引き換えに
この様な交換条件
を突き付けた事で
卯月先生は思わず
怒りを露わにしました。

「な、何だと!
お前はこの期に及んで、まだ、
そんな事を言って居るのか ?!
全く、なんてヤツだ、
俺と取り引きしようなんて!
そんな卑怯な手に、まんまと
乗る様な俺じゃあ無いぞ!
……全く、そんな事、
簡単に教えるワケが無いだろう ?! 
大体なぁ、そんな事教えたら、
お前は、どうせその証人に
下らん復讐か何ぞでも
するつもりだろうが、
そうはいかんからな!」

「……復讐 ?! …ですか ?……
トンデモ無い、そんな事、
絶対にしませんよ。」

「ふん、そんなの
分かったもんじゃ無いからな……
大体だなぁ、
復讐するつもりじゃ無いなら……
じゃぁ、お前は一体なんで、
自白してまで、そんな事を、
イチイチ知りたがるんだ ?!
そもそも、そんな事を知る必要が
どこに有るって言うんだ ?!
ぇえ〜ぃ、ちゃんと
答えられるもんなら、
答えてみろ、天田!」

「…そ、それは……
その人に謝る為です……。」

「…えっ ?! …… い、今……お前は……
一体……何て、言ったんだ?」

「はい、『謝る為』と言いました。」

「……な、何ィ ?! お前は本当に
…あ、謝るって……言ったのか……?」

「はい、そうです。」

「…な、何で、…何でまた…?
…だが……一体、何の為に、
お前が謝らなきゃならんのだ ?! 
そのワケを説明して貰おうか。」

「…それは……つまり……
今回の件で証人になると云う事は、
『仲間を裏切る』行為
だと云う事がハッキリと
して居ますから……」

「ふん、お前達の仲間内では、
当然そう云う事になるんだろうな。
……だから、そう云う時は……
普通はリンチとか暴行を
加えるんだろう?
…お前達の様なヤツらの
やり方ならなぁ……
なのに何でお前は、
そんな裏切り者に
謝る必要が有るんだ ?!
……どう考えても、逆だろうが ?!
こういう場合、お前がそいつを
吊るし上げて謝らせるのが
普通じゃ無いのか……?! 」

「…はぁ……まぁ……
そうかも知れませんね、
普通だったら……」

「な、何だと ?! 
……お前は、普通じゃ無いのか?」

「いえ、まぁ……
普通じゃ無いと云うよりも……
私はただ、そんな風に
脅しや暴力に訴えたところで、
なんの解決にもなら無いと
思って居るだけです。」

「…ほう……お前は、
面白い事を言うヤツだな……
それで…?」

「……はい。
……友達や仲間を売る行為……特に、
私達の場合は、『チクる事』
つまり学校側に
言い付けたりして証言する事や、
ましてや証人になるなんて、
私達にとっては、まさに
トンデモ無い、最高の
『裏切り行為』に値します……」

「そりゃ、まぁそうだろうな……
だから、俺も証人の
安全確保の為にも
名前なんぞは絶対に
易々とは言わんのだ。」

「そうですね……でも、
だから知りたいんです。
どうしてそんな
身の危険を犯してまでも、
仲間を裏切って
チクったりするのか……
そんな事をして、
もし皆んなにバレたら、  
それこそ、恐ろしくて
次の日から学校にも
来られなくなるのに……。
だから、私は、考えたんです……
先生に『証人が居る』と言われて、
一生懸命に仲間の顔を一人一人、
思い浮かべては、
『一体、誰がそんな大それた
事をしたんだろう ?! 』って……
いや、正確には、
『誰にそんな大それた事を、
私は、させてしまったんだろう ?! 』
って……」

「えっ!…お、お前は……今、 
お前自身が、そんな事を
させたと言ったのか ?! 
一体全体、どうして
そう云う事になるんだ、天田 ?!」

「はい。……それは勿論、
今度の件は、私個人に
対しての証人ですからね。
……つまり、私に対して何か
只ならぬ恐れや恨みが無くては、
絶対にこんな事を仕出かす
ワケは有りませんから……
だから、私も先程から一人一人
仲間の顔を思い浮かべては、
今までの付き合いの中で、
何か私が知らない間に、
相手を傷付けてしまった事が
有るのでは無いかと
色々と考えあぐねて居たんです。」

「…ほう、……それで……?」

「……はい……でも、結局、
幾ら考えてみても、どうしても、
こんな大それた事の
代償になる様な、恨みや怒りを
買った様な覚えが何一つとして、
思い浮かば無いんです。
……でもきっと、私自身と
その人との何かしらの関係性が
原因の筈ですからね、
これは間違い事実ですから。
……だから、先ずはその人と
話しをしてみない事には
何も始まらないし
解決する事も出来無いんです。
そして、話しをして、もし
何かしらの誤解が有ったのなら、
先ずはその誤解を解いて……
或いは、私が知らずに
その人を傷付けてしまったのなら、
それこそまっ先に、
その人に謝らなければ
なら無いと思ったんです。
先生、だから、その人の名前を
教えて欲しいんです!
先生、どうか、
教えて下さい、お願いします!」

私は卯月先生に向かって
きちんと姿勢を正してから
すがる様な気持ちで
深々と頭を下げました。

そして私は
再び顔を上げると
その後は、まるで食い入る様に
先生の顔をずっと見て居ました。

その間、卯月先生は
腕組みをしながら
目を瞑ってじっとしたまま
何かを考えて居る様でした。

暫くすると
卯月先生はゆっくりと
目を開けて、私の顔を
じっと眺めて居ました。

「………天田…、
お前の話しは良く分かった。」

「…そ、そうですか。」

「うむ。……それじゃあ、
お前がちゃんと自分から
パーティーに行ったと認めれば、
俺もその証人の事を
話してやるぞ。」

「…あ、…はい。
ありがとうございます、先生!」

「よし、それでは……改めて。
……天田、お前は
パーティーに行ったんだな……?」

「………は………ぃ……」

「なんだって…?
俺に聞こえる様に
ちゃんと答えんか、天田!」

「…ぅっ、……はい…。
……い…行きました。」

私は自分が無理矢理に
嘘の自供をした事で
完全に自分自身を
裏切って居る様な
何とも言い難い惨めな気持ちで
何だか妙に居心が地悪くなり
暫くは顔も上げられませんでした。

「よし、分かった。
これで取り調べは済んだな。
……しかし、お前が、もっと早く
本当の事を言ってれば、
こんなに手間が掛から無くて
済んだのにな……」

「……先生、…あのぉ、
早く、証人の事を教えて下さい、
お願いします!」

「おう、そうだったな……。」

「先生、一体、
証人って、誰なんですか ?! 」

「うむ、名前は言えんが……」

「えっ?
名前は言え無いって……
先生、今更、
何を言ってるんですか ?!
名前を教えて貰え無いんじゃ、
私は一体、誰に謝れば
いいんですか、先生!」

「いや、天田、大丈夫だ。
俺が言ってるのは、お前が
そんな事を心配する必要など
要らんと言ってるんだ……」

「な、何を言ってるんですか……?
…まさか……せ、先生は……
私を騙したんですか ?! 」

「な、何だと ?
俺がお前を騙しただとぉ ?!
馬鹿を言うんじゃ無い!
俺は、お前を騙してはおらん!」

「…じゃあ、一体……
何で教えて貰え無いんですか?
教えるって…約束したのに……!」

「いや、教えてやるがな、天田……
実は、証人と云っても、
お前が考えてる様な
証人では無いんだ。」

「はぁ?…そ、それは……一体、
どう云う意味ですか……先生 ?! 」

「うむ、要するに……
この学校の生徒では無いって事だ。
……どうだ、天田、
これでお前も安心しただろう?」

「えっ!
こ、この学校の生徒じゃ
無いんですか ?! 」

「そうだ。
だからお前も、もう自分達の
仲間の事を詮索したり
疑ったりし無くていいんだ……
だから、お前は
もう、謝る必要も無いんだぞ。」

「…だ、だけど…先生……
この学校の生徒では無いなら、
一体、どこの誰がそんな証人に
なるって云うんですか?
そんな事、現実的には絶対に
有り得無いじゃ無いですか……
ま、まさか……、先生は最初から
ワザワザそんな有りもしない
証人をでっち上げて
私を騙して自白させる
魂胆だったんですか ?! 」

「な、何を言うか、天田!
俺は、お前など、
最初から騙してなどおらん!
実際、証人が居るのは
本当の事だからな。」

「……へ?…ちょっ、ちょっと
待って下さい、先生……
この学校の生徒じゃ
無いとすると……、一体、
誰がどうやって、私がその
パーティーに行った事を
証明出来るんですか?
それこそ、本当に
オカシイじゃ無いですか、
そんなの全く辻褄が合わないし
完全に変ですよ!」

「いや、ところが、全く
変でもオカシイ事でも無いし……
ちゃんと、辻褄も合う事なんだ。
天田、実はな……
学校に通報が有ったんだ。」

「…へっ?……つ、通報?
……通報ってなんですか?
一体、どう云う事ですか?」

「だからな、つまり学校に
電話が有ったんだ。
ほら、アレだ…俗に言う
タレ込みってヤツだな……
まぁ、そう云う事だ、天田。」

「…い、いや、
ちょっと待って下さい、先生!
じゃあ、その電話は、
卯月先生が直接、
受けたって事なんですか?
一体、それは、どんな人で
どんな内容だったんですか ?! 」

「あぁ、それがな、天田、
俺が直接、その電話を
受けたワケでは無いんだが……
でも、お前の事を
そのパーティーで見たと
言って居る人物が、
直接、この学校に電話して
通報したそうだ。」

「えっ?
なんだ、それじゃあ、
直接、卯月先生が電話を
受けたんじゃ無いんですか……?
なら、一体、誰が
そんな電話を受けたんですか?
大体、電話で通報って……
一体、誰が何の為に
ワザワザ、そんな事を………
しかも……卯月先生自体
又聞きの又聞きみたいな……
そんなまるで
信憑性の無い様な話し、
到底、私には
信用出来るとは思えませんが……?!」

「ふん、お前がその通報を
信用するかどうかは、関係無い。」

「…そ、…それでは…当然、
学校側もその通報者自体が、
どこの誰だか、ちゃんと
身元も分かって居るんですよね……
だって、その通報者の
電話を元に、現にこうして、
証拠として、実際、
私に突き付けてるワケですから……
それは一体、
どんな人物なんですか?
大体、そんな事をいちいち
ヨソの学校にワザワザご丁寧に
電話して来るなんて、
一体、どこの何者なんですか ?! 」

「いや、天田……
俺はその通報者の事は
よく知らんのだ……」

「…な、何を今更、無責任な事を
言ってるんですか、先生は……
だったら、その電話を
掛けて来た本人や、その証言が
本当に事実で信用に値する
と云う事が、一体どうやって
分かったのか、ちゃんと
教えて下さいよ、先生!」

「ふん、俺は無責任な事なんぞ
今まで一度も言って無いぞ、
勘違いするなよ、天田。
勿論、俺がその電話を受けた
ワケでは無いが、その通報の
電話を受けた人が、
ちゃんとした人物だから、
疑う余地は無いって事だ。」

「へ?……ちゃんとした人物って?
……はは〜ん……つまりは、
先生のお仲間ってワケですか…。
それで、その電話を受けた教師は
一体、誰なんですか?」

「ふん、そんな事は、
お前には関係無い。
知らんでも、よろしい。」

そこで私の頭の中では
まるでスーパーコンピューターが
フル稼働する時の様な
物凄いスピードで、これまでの
高校生活で私と何かしらの
ネガティブな関係性が
有ったと思われる様な
先生達のデーターを
片っ端から
掻き集め様としました。

しかし
そんな事に
該当する様な教師は
後にも先にも、或る人物
ただ一人しか
思い当たら無かったのでした。





続く…





※新記事の投稿は毎週末の予定です。
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