私と地井さんが
これから遠く
離ればなれになる事は
この様に付き合い始める前から
お互いに分かっていました。

しかし、私自身は、
たとえ遠距離でも
手紙や電話で遣り取りし、
夏休みや冬休みなどの
長期休暇の度に合ったりして、
お互いの気持ちが
変わらずに居れば、
2〜3年の内には、
きっと地井さんが
迎えに来るかも知れないと
密かに思っていたのでした。

それは、地井さんは
私の幼馴染み達とは違い、
これから社会人として就職して、
収入を得るワケですから、
贅沢をしなければ、
二人が生活するぐらいは、
何とかなるのでは無いかと
思っていたからでした。

しかし
そんな将来の話題に就いては、
今までお互いに話した事も
有りませんでしたし、
まだ付き合い始めた
ばかりだったので、私自身、
時期尚早だとも思っていました。

ところが
地井さんから突然
「7年後迎えに来る」
と言われ、私は思わず
躊躇してしまいました。

しかし、それでも
一応ある意味『告白?』
としては、全く嬉しく無かった
訳では有りませんでした。

しかし、何よりも
『7年後』と云う、
私が期待していた時期より、
余りに掛け離れた、
遥か遠い未来、
限り無く可能性の薄い将来に
限定されてしまった事が
残念でした。

それは事実、
私にとっては非現実的な
おとぎ話や夢物語と
何ら変わら無い事でしたので、
本当にガックリしてしまいました。

私としては、
一緒になる事を
二人が本当に望んでいれば、
直ぐにでも地井さんが
『迎えに来る』事は
可能な筈だし、何より
至極当然の事の様に
考えてもいました。

ところが
まるでそんな事は
微塵も考えていないかの様な、
地井さんからの一方的な
『7年後』と云う言葉を聞いて、
これで、私達が一緒になる
と云う将来は、殆ど完全に
実現不可能な事なのだと、
釘を刺されてしまった様に
感じたのでした。

それなら寧ろ、
いっその事、
何も言わないで居て
欲しかったと思いました。

そうすれば、
地井さんが遠くに
離れて行っても、
私は僅かな望みを
抱えて居る事が出来ましたし、
また、会えない事で、
たとえ、気持ちが段々と離れて、
自然消滅したとしても、
それはそれで、
遠距離故に、十分に
理解出来る事でしたし
納得も行く事だろうと
思っていました。

その当時の私は、
地井さんが云う様に、
男女間の親密な
愛情や愛憎には、
まだ無知な『子供』だったのか、
または、現実的思考が優先する
『大人』だったのかは
定かでは有りませんが、
少なくとも、地井さんよりは
理路整然とした考え方を
していたとは思っていました。

結局、地井さん自身、
一体どうしたいのか、また
どうすればいいのか
本人が一番よく分かって
いなかったのでした。

そして、自分自身の心が
本当に望んでいる事が
分からない為に、
たとえ人に自分と同じ事を
望んだとしても
中々、共感を得られ無いと云う
現象が起こるのでした。

私自身も
ハッキリ言って、
この様な親密な人間関係は
初めての事でしたので、
一応は人並みに
『幸せなハッピーエンド』
を望んでいましたし、事実、
そうなるものと
少なからず信じてもいました。

しかし
地井さんの発したこの言葉で
地井さんの本意、
つまり
自分自身は遠く離れたら
自由に男女間の
人間関係を続けるだろうが、
『初体験』の私には
『7年後に迎えに来る』と云う、
一種の愛情表現に思える様な
宣言または告白で納得させて、
その言葉だけで
遠く離れてからも
7年の間、私が誰とも
付き合う事が出来無い様に
縛りの為の『呪縛』にしようと
していたのだと云う事が
何となく感じられました。

ただ
私自身は、
端から『初体験』
と云う事に対して、
感情的には
余り重きを置いて
居ませんでしたので、
どちらかと云えば、
『どうせいつかはする経験』
としての認識の方が強く
であれば、
近所の幼馴染みの誰かと
経験するよりは、それよりは
まだ大人の地井さんの方が
良いと云うぐらいの
まるでアメリカナイズされた
考え方をしていました。

なので
たとえ自分勝手な地井さんの
考えが分かったとしても、
あいにく私自身は
『初体験』などと云う事で
縛られる様な、ナンセンスな
考え方は、全く持ち合わせて
居ませんでしたし、
ましてや当時は、
気にも留めて居ませんでした。

そして
この時の私が
唯一考えていた事は、
お互いに色々な事を
何でも話せる相手として、
少しでも長く
地井さんと話しをしたい
と云う事でした。

それまでは、靖子が
唯一の掛け替えのない
私の話し相手として、
いつでも
話しをする事が出来ましたが、
『秘密の仲間』の件以来
私は酷く靖子に自尊心を
傷つけられてしまっ為、
仲間を足抜けしてからも
これ以上、靖子とは
関わり合いを持たない様に、
敢えて靖子を
遠ざけていました。

なので、この当時、
靖子以外に
何でも話し合える相手は、
地井さん以外には
誰も居ませんでしたので
その為にも
地井さんとは、
出来る限り長く
一緒に居られればいいと
思っていただけでした。

そして地井さんも、
同じ様な思いからか、
夏前にはお互い
離れる事に
なっていましたので、
これから来る夏休みの為に、
或る計画を
立てていた様でした。

それは、夏休みを利用して、
私が地井さんの故郷に旅行し、
地井さんの実家に訪問して
暫くの間、ホームステイ
させて貰うと云う計画でした。

この計画を聞かされた時、
私は思わず嬉しくて、
本当に喜びで
満面の笑顔になって居ました。

何よりも嬉しかったのは、
この旅行で
地井さんの実家に
訪問すると云う事は、
それ自体が明らかに
私と云う存在を
地井さんの家族に紹介する
と云う事ですし、
今までの様な秘密めいた
二人の付き合いが
大っぴらにされる事
だったからでした。

これで
地井さんの
私に対する気持ちが
中途半端なものでは
無いと云う事が
ハッキリと証明された様で、
本当に嬉しい、と云うより
感動してしまいました。

「地井さんは靖子の様に
私を平気で騙して
自尊心を傷付け、人間不信に
陥りさせたりはし無いんだ」

と云う事が分かり、
本当に嬉しくて
人知れず涙しました。

これに先駆ける様に、
少し前の
ある日の夕方
地井さんから電話が有り
私の家の最寄り駅に居るので、
これから行ってもいいかと
突然、言われました。

その日の夕方には
既に両親も家に居たので
私が地井さんに
言われた事を伝えると、
両親も快く承知してくれました。

地井さんの事は
私が中学に入学して
運動部に入部した時から
学校や部活動の話しになると
時折り話題に上るので
家族も地井さんが
どう云う素性の
どんな人物なのかは、
凡そ分かっていましたので、
突然の訪問にも拘らず、
二つ返事で喜んでくれました。

そこで
私は妹の英子と一緒に
駅まで地井さんを迎えに行くと、
引き返す道すがら
3人で冗談を言ったり
楽しく話しをしながら
我が家に到着しました。

地井さんは
最初、何だか少し
緊張している
様にも見えましたが
家の中に迎え入れられるなり
私の両親に丁寧に挨拶すると、
一見もの静かで
大人しそうに見えるものの
意外と社交的な
いつもの地井さんの表情に
なっていました。

そして直ぐに、
持参した紙袋から、
ジョニー・ウォーカーの
黒のウイスキーのボトルと
ワンカートンのタバコの箱を
差し出すと、両親も大変喜びました。

そして、地井さんに
ビールが注がれると、
大人達は乾杯して
おつまみやら、お刺身が運ばれて、
話しも盛り上がると
いつも通りの宴となりました。

私の家は
いつも誰かしらが
出入りしていて
お客も頻繁に来る家なので、
いつも母は
お客が舌鼓を打つ程の
美味い料理を作ったり、
お酒を振る舞っては
宴会に華を添えて居ました。

こうして
地井さんは数時間の間、
我が家で楽しく過ごしてから
自分の下宿に帰って行きました。

地井さんが
私の夏休み中に
自分の故郷ヘ旅行する
計画を立てたのは、
この我が家への訪問が
有ったせいかは
分かりませんが、
私がこの夏休みの
旅行の事を両親に話すと、
割りと簡単に了承を
得る事が出来ました。

ただし、私が地井さんの
家族に世話になるワケだから、
くれぐれも失礼の無い様に
礼儀正しく振る舞う様にと、
きつく言い含められました。

そして、
地井さんの家族には
「くれぐれも宜しくお願いします」
と伝える様にとも、
念を押されました。

こうして
私と地井さんの
夢の様な夏休みの計画は
実行される運びとなったのでした。



続く…





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