フェチでも変態でもないと思っている。自分自身では。
しかし、主人の身体のにおいを嗅ぐのが好きだ。
生活や時間、空間を共有するように、主人がまとうにおいも共有したい。
頭皮、こめかみ、耳、胸元、肩甲骨のあたり、おへそ、股間、足。

加齢臭『ノネナール』を発する耳裏のにおいをチェックするのは妻の役割。主人の耳裏からは未だに赤ちゃんのようなにおいがする。
一日の仕事を終えて汗で蒸れたきゃんたまの裏側のにおいは、嗅いでみなければわからないほど強烈だ。玉にかいた汗、文字通り『玉露』と称して周囲に触れ回るほどかぐわしく、実際に嗅ぐと、後悔するほど本気でくさい。でも、不思議なことにまた嗅ぎたくなる。

くさくても、いや、くさいからこそ嗅ぎたくなる。
口の奥の方でじゅわっとツバが沸いてくるような、主人のにおい。

思えば、出会った頃の主人はまだ二十歳。色白ですらりとした青年で、からかうとすぐに頬が赤くなるさまがかわいかった。
恥らう姿が見たくて、開脚させた主人の股間に顔を埋め、私の顔におならをかけるよう強要していた。改めて文字に書いてみると、蛮行としかいいようがない。

あれから時は流れ、色白のスリムな青年も、顔色の悪いメタボ中年になろうとしている。
今ではおならを恥らうどころか「日曜夜はなぜかおならが臭い」と公言してはばからない。そして本当に臭い。日曜夜は夫婦揃って臭い。

すっかり変わってしまった。変化というよりは老化の一途をたどっているようだ。認めたくないが事実である。

でも、これが付き合いたて間もなくだったらどうだろう。
おならをされただけでムカつくかもしれない。ましてやそれがVXガスレベルの刺激臭だとしたら「ちょ!ナニこのにおい!!ムリムリ!こんな人と結婚なんて絶対ムリー!!」と思ってしまうに違いない。
主人側から見ても足の小指を鼻の穴にあててにおいを嗅ぎたがる女とは結婚を望まないだろう。ましてや、玉露を欲しがる女なんて。それについては今でも願い下げかもしれないが。

嗅覚は、五感のうちでもっとも本能的な感覚。フェロモンも嗅覚に訴えるものだ。さらに嗅覚は記憶とも密接に結びついているという。長年そばにいたからこそ、その臭さも愛おしく感じられるのだとすれば、においへの許容量と愛情の深さは比例するのかもしれない。
たとえ離れてもあなただということを思い出すため、あなたとの日々を心に刻むため。今日も私はあなたのにおいを嗅ぐ。

なんて前面に押し出して、本当は自分の加齢臭も受け入れてもらおうという算段である。

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