今月のお題は『プレゼントにまつわる思い出』です。

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12月だった。
部屋に遊びに来ていた恋人が、「来週の水曜日、休みを取ったんだ」と嬉しそうに言う。
そうなんだ、平日だからゆっくり遊べないかもしれないね、と返事をしながら、私は、どうしてこの人はこんなに嬉しそうに楽しそうにしてるんだろう?と不思議に思っていた。
「ごめん、その日は会えない。俺、買い物に行くんだ。ちょっと大きなものを買いに行くから、ひとりで行って来る」と彼は言った。
うん、わかった、じゃあ次の週末にまた一緒に遊びに行こうね、と私は答えた。

それで話が終わるかと思ったら、彼はなおもニヤニヤニヤニヤしながら、「すごく大事なものを買いに行くんだ、俺。そんな大きな買い物ってしたことがないから、かなり緊張して気合が入ってるんだ」とくり返した。

そんなに大事な、いったい何を買いに行くんだろう、っていうかどうしてそれをそこまで私に念を押すんだ……?と、さすがに不審に感じ始めた私に、さらに追い討ちをかけるように彼が言った。

「あー、ほんとに緊張するなあ!大事なものだから。だって俺、指輪なんて買いに行ったことがないから……」
そこまで言って、彼はいきなり真っ青になって「わあっ!」と叫んで口を押さえて、そのまま床に転がってしまった。

「わああああ、俺、俺、内緒にしておこうと思ったのにしゃべっちゃった!!ああああ、こっそり買いに行ってびっくりさせたかったのに!!しゃべっちゃったよ!!」

聞こえなかったよ!と言ってあげたかった。けど、あれだけはっきり嬉しそうに断言されてしまったものをそうあからさまなフォローもできず、嘆き悲しんで床を転がりまわる彼を前に、私もオロオロするしかできなかった。
もう5年も前の話。

そのときにもらったのは婚約指輪で、翌年の夏に私たちは結婚した。
クリスマスがめぐってくるたびに、あのときの彼の嬉しそうだった顔、そして嬉しさあまって内緒にできなくてポロッとしゃべってしまったこと、そのあとの嘆き悲しみぶりを思い出しては温かい気持ちになる。
こんな思い出をもらったことが、私にとって何よりのプレゼントだったなあと思うのだった。

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◆ゲストライター:あっちゃん

あっちゃん

思考回路は永遠の15歳。
学習塾講師、出版社営業、税理士事務所秘書、大学教授秘書等々を経て、現在はふつうの会社員兼2歳男児と32歳男児の母。
重度の活字中毒と、変態的食欲に悩まされる日々。
汚れた芸風と乙女心的ポエジーの相克を掘り下げることが身上。

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