今月のお題は『小さな頃の夢』です。

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幼い頃、夢は2つあった。

病弱で入退院や通院を繰り返した幼少時代、将来は看護婦さんになるのだと心に決めていた。そして、日々練習に励んでいた。
その結果、家中のあちこちにはいつも、体の隅々まで赤チンで朱色に染まって、トイレットペーパーでぐるぐる巻きになったお人形が転がっていた。

もう1つの夢は図書館の本をすべて読破すること。
私には放浪癖を持つ祖父がいた。
彼が、戦後処理の用事にかこつけて姿を消した時代があった。その時ふらりと立ち寄った秋田県に滞在して、仕事もせずに街の図書館の蔵書を片っ端から読破して、とうとうすべての本を読みつくしたという逸話を持つ。その事実が発覚した後、家で小さな子ども達をたくさん抱えて待つ祖母にこっぴどく叱られた事は言うまでも無いが、物心もつかない小さな頃からその話を聞かされて育った私は、会ったことのない祖父と、祖父を虜にした図書館に憧れた。そして、幼稚園にあがった頃からすぐに図書館通いが始まったのだ。

幸か不幸か、大学進学直前に看護士の道には進まない決断を下してしまったし、根性も知力も気力もない孫娘が図書館で読んだ本のジャンルにはひどい偏りがあった。
けれど、一冊一冊に違う世界が広がる本が、何万何十万とひしめき合いながら静かに棚を埋め尽くす図書館が、今も私にとっては魅惑的な空間であるのは間違いない。

大きな窓に面した図書館の片隅で、ガラス越しに舞い散る桜を眺めつつ、ちょっとかび臭い本の臭いに包まれながらひっそりと息絶えること。それが今の私の夢だ。

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