夢をよく見る。
しかも、現実なのか夢なのかよくわからなくなるくらい、リアルな手触りのものを。
色もあるし感覚もあるし、味まではっきりわかる。
そんな「ほぼ現実」の夢を頻繁に見る、その当然の帰結として、私は非常によく寝ぼける。

家系的にそうなのか、父と弟も、実に強烈に寝ぼける人種で、伝説には事欠かない。

父という人は、いつだって攻めの姿勢を忘れない男だった。
唸り声や雄叫びはもちろんのこと、下半身丸ごとベッドからずり落ちたり、両足の裏でしっかりと床を踏みしめ、なおかつ熟睡していたりする。

ある朝、父はパジャマのズボンとパンツを脱ぎ去り、完全に裸族(下半身限定)だった。
まったく意味も目的もわからない、謎の行動である。
しかも本人はそれを覚えてない。
父は、母に向かって「俺が寝ている間に何をした!」と詰め寄ったが、「あたしがそんなことするわけないでしょう!!」と鬼の形相で言い返され、ちょっと泣きそうになっていた(そのあとも母は「うぬぼれるのもいい加減にしろっ」とぶつぶつ怒っていた)。

一方、弟の寝ぼけ方には物語性があり、ある意味でつじつまがあっている点で、独特の世界観を持っていた。
私が高校生だったある夜、午前2時過ぎのことだ。当時小学生の弟が、隣の部屋から掛け布団を引きずって持ってきた。
「お姉ちゃん。俺の布団、使ったら机の上に戻しておいて」と言うのだ。
「机の上に?あんたの布団を?なんで?」と私が聞くと、彼は戸惑った表情を浮かべてこう言った。
「あれ……、だって、俺の布団をかぶって踊りたいって言ってなかった?」

……弟よ、君の夢の中の姉は、いったいどんな人間なのだ。

でも、お姉ちゃんが踊りたいって言ったからって、こんな真夜中に自分の布団を抱えて持ってきてくれたのだね。その優しさが嬉しいやら、自分のキャラが情けないやら複雑な気持ちだった。

私の寝ぼけの中で一番強烈なのは、9歳の頃、家族旅行の夜。
旅館で、深夜飛び起き、激昂して隣で寝ていた妹の身体を激しく揺さぶりながら怒鳴った。
「あんた!!今、肉を隠したでしょう、肉っ!出しなさい、肉をーっ!!」

そのあまりの剣幕に両親も飛び起き、しきりに「妹は肉なんて隠していない」と私をなだめるのだが、私はなかなか納得せず、いつまでも「隠した肉を出せっ」と叫び続けたのだった。
あのときの、妹の憎たらしい笑い顔(肉を隠してやったぜ……イヒヒ……)は、今でもはっきりと思い出せるのに、あれも夢だったとは、……うたかたのごとしであるなあ。

近年の私は、「夢の中で何か食べてたよ」と指摘されることが増えてきた。
つい先日は、「かぼちゃのチーズケーキ」なるもののレシピを流暢に説明していたそうだ(そんなもの作ったこともないし、作り方も知らない)。

夢って奥深い。 

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◆ゲストライター:あっちゃん

あっちゃん

思考回路は永遠の15歳。
学習塾講師、出版社営業、税理士事務所秘書、大学教授秘書等々を経て、現在はふつうの会社員兼2歳男児と32歳男児の母。
重度の活字中毒と、変態的食欲に悩まされる日々。
汚れた芸風と乙女心的ポエジーの相克を掘り下げることが身上。