母の実家の御墓には犬の御墓が並んでいる。でも、そこに『トミ』の骨は入っていない。
軍用犬として戦地へ行ったきりだからだ。
特に訓練をした訳ではなかったが、とても頭のいい犬だったから連れて行かれたと聞いた。
軍用犬が帰って来た家の話はどこも聞かないそうだ・・・。
どこで御国の為に、兵隊さんの為に尽くしてくれたのか・・・。
話は昭和11年正月明けの母が産まれた日。
以前より秋田犬の仔犬が産まれたらと、お願いしていた仔犬が2匹来た。
この地方では、産まれたばかりの仔犬と人間の赤子を一緒に育てる事は、
どちらかが早死にすると、懸念されていた。
しかし、せっかく縁があって来た仔犬達なので、
祖父は子育てと一緒に仔犬も育てて行くことを決めた。
秋田犬の血統登録がしっかりした彼ら、
スマートな体系・茶と黒の毛並み・耳もしっかりピンとはった『トミ』。
体格がしっかり大柄な体系・茶と白の毛並み・ただ耳が垂れたままだった『ムツ』。
生まれつき身体の弱かった母と、競って成長をしていった。
それから4~5年がたったある日、憲兵が連れて行った。
連れて行かれたのは『トミ』。
2匹とも同じ様に利口な犬だったが、犬の鑑札をたよりに調べ上げ、
見た目がりりしく、近所の評判も良い犬だからという理由で決められたらしい。
小さな町の話だが、10頭ほど連れて行かれた。その1番目が『トミ』だった。
あの当時の事だ、嫌だと口答えなど出来るはずもなく、
前触れもなく、なんの知らせも受けぬまま、
軍の車が来て「預かります」と言ってあっさり連れて行かれた。
テレビドラマのような、お犬様にタスキをかけて出兵万歳などは・・・ない。
終戦後、祖父は犬の行方を捜しまわったが、何ひとつ手掛かりはなかった。
せめて何処の部隊にいたのかだけでも・・・探したかった。
軍用犬が帰ってきた話はひとつもない。
何処に連れて行かれたのか、何処でなくなったのか、何の言葉も、何の手紙もない。
それから祖父は怒りを覚えた顔つきで家に帰り、その後一言も語らなかった。
ある軍人さんから恐ろしい事を聞いた。
現地で食糧にされた犬もいたそうだ。それだけは、信じたくない話だ。
同じ戦火のなか、家では『ムツ』も頑張っていた。
「家族を和ませ隊」として、戦争中に空襲警報が鳴ると、
家族の誰よりも先に、自宅地下の防空壕に入っていたそうだ。
そんな『ムツ』は19年を生き抜き、家族とともに戦争を見届けた。
犬の御墓には、先代の秋田犬『パク』『コロ』そして『ムツ』が眠っている。
犬は帰巣本能があるから、きっと『トミ』の魂はここに帰って来ているよね。
仕方のない時代に産まれ、人間の戦いに巻き込まれ、
御国の為につくしてくれたワンコ達、みんな安らかに眠れ。
(※2011年8月15日掲載記事より転記※)
(※2013年8月15日掲載記事より転記※)
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