338 芸者さんと野球拳

 小さい頃、父はよく私を宴会に同伴した。芸者さん達が三味線や太鼓に合わせ踊る。私にはあまり面白いものではなかった。宴たけなわになると芸者ワルツや野球拳が始まる。「野球するならーーー、こうゆう具合にしやさんせ。アウト、セーフ、よよいのよい」これは中々おもしろかった。私も芸者さんにじゃんけんに負けないようきばった記憶がある。40代後半になりその遊びが妙に懐かしく思われた。横浜から福岡に転勤後、仕事は多忙を極めた。仕事仲間と芸者遊びをしてストレスを発散したくなった。ある日の午後、男性社員有志をつのり、博多から少し離れた玄界灘の海が荒々しい津屋崎の旅館に好きもの達が集合した。夕方からいよいよ宴会が始まった。酌婦相手に野球拳をおこなった。とても盛り上がった。しかしお相手は芸者さんではなく洋装のコンパニオンであった。すでに芸者さんは絶滅していたのであろうか?(平成8年12月)