312 土日の暇持て余す

 横浜磯子へ単身赴任して以来、土日には何もすることがなくなった。それまでは子供をつれて遊園地等色んな所に出かけていたのに全くそれもなくなる。しかたなく、伊勢佐木町、港の見える丘、氷川丸の停泊する海岸あたりを散策する。高層ビルの立ち並び始めた場所もうろつく。眺めはいいのだが心は少しもみたされない。街中はやめにして、東海道線に乗り、昔住んでいた小田原の下曽我あたりにふらりと出かけてみる。箱根の外輪山、丹沢の山々の向こうに頭に雪を頂いた富士のお山がどっかりと鎮座する。懐かしさがこみあげる。お寺のベンチに寝転がる。大きな葉を落とした木々にいくつもの鳥の巣がくっついている。

 太宰治の愛人が昔住んでいた古家を覗く。それなりに風情がある。目の前には満開の桃色の花をさかせた梅林が一面に広がる。ござの上で花を眺める。3月上旬は少々まだ寒い。(平成6年3月)