305 体の弱かった父
数年前、実家の仏壇下の押し入れを掃除していたら父の学生時代の日記が出てきた。長崎の高等商業に在学していた時、長期の療養生活を有明海の湯島で送っていた時の事が記されていた。どうも体が弱いので学業をあきらめざるを得ない父の無念さが伝わってきた。母はよく言っていた。「とうちゃんは体の弱かったけん五高にいくのを諦めたとよ。」東京に出て故郷に錦を飾りたかったのだと理解した。思えば生まれて初めて見る父の姿は寝室の畳の上に寝ている父の姿であった。長い事、床に伏していたようだ。また中学生だった私の前で「きのうは眠れんかったばってん、横になるだけで疲れはとれるけん」と負け惜しみをいった父を哀れと思ったこともあった。
60歳までまだ2年あったのに、私が高校2年の時に父は銀行を退職した。大学の学費のことを心配した私に「なーも心配せんちゃよか!」と父は言った。大学に入学すると電信為替で毎月2万円きちんきちんと送金してくれた。私の上二人の兄たちは46歳と58歳で亡くなったが父は69歳まで生きた。75歳位までは生きたいと言っていたがそれはかなわなかった。私も父の血を受け継いだのかすこぶる体が弱い。コロナワクチンの副反応で6か月以上も微熱、倦怠感、頭痛がおさまらない。不眠や自立神経不調に悩まされている。しかし現在72歳。父を超えてしまった。昨年99歳で亡くなったが、丈夫で風邪ひとつ引かない母の血も引いているからだろうか?(令和4年11月)