289 税務署員に間違われる!
九州通信局の連中とは事あるごとに町の居酒屋街に繰り出した。飲み屋街は電車通りから大きなアーケードの下通の間に蜜集していた。3次会位までは其のあたりをグルグル廻れば用が足りた。いつも訪れる店はだんだんお決まりになってきた。ある晩、たまには新しい店に行きたいと思い知らないビルの知らないスナックの扉を叩いた。ドアを開けた瞬間、女達が目をまん丸くしてこちらを凝視する。一瞬何が起きたのかサッパリ解らない。
コートを脱ぎ、カバンをしまってカウンターに収まる。
「あーたまげた。税務署かと思ったばい。だってグレーのコート、スーツに黒い鞄なんだもの。誰だって誤解するわよ!」
「それは失礼しました。こちらもたまがった。そんなに驚くとはよっぽど悪ことしているのかな?」
それ以来私はこの店の常連となった。行くたびに税務署員に間違われた話で盛り上がる。2次会、3次会の後に立ち寄る閉めの店となった。
(昭和60年9月)