279 初めての骨折

 昭和60年4月の連休前のある日の朝起きた時のことである。何気なく左手をついて起き上がろうとした。その時、手のひらの根元がコキッと小さな音を立てた。その後何事もなくそのまま出勤した。午後から左手の根元に痛みを感じた。医務室で優しい女医さんから湿布をしてもらう。退社する頃にはかなり痛みだした。就寝の頃には痛みは益々ひどくなり少しでも動かすと激痛となった。その激痛のためにその晩は一睡もできなかった。

 翌朝休日担当の整形外科にタクシーで駆け込んだ。左手首の三角骨が骨折したとのこと。とても大きなギブスを左手の肘まではめられた。かなり重いギブスである。全治2か月とのこと。それから不便な生活が始まる。通勤はバス。鞄を足元に置き、右手でつり革を掴まる。かなり揺れるので姿勢を保つのが大変であった。雨の日はさらに大変。よくぞ2か月も通えたものだと今更ながら感心する。お風呂も大変である。体を隅々洗うのは容易でない。子供の頃に母親に洗ってもらった時のように、かみさんに時々洗ってもらうこともあった。悪い気はしなかった。むしろ心地良かった。

(昭和60年5月)