パイオニア吹奏楽団のコンクールに思うこと | "Soka University, today" by Yamaoka

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創価大学でのトピックを皆さんにシェアします。

11年ぶりの全国大会出場を決めたパイオニア吹奏楽団に関連する話題です。

創価大学赴任直後の1992年からこの楽団(当時は吹奏楽部)の顧問を務め、2012年からは総顧問を務めていますので、歴代の学生たちの奮闘、泣き笑いを見てきました。ただ、大学の強化部ではないので、特別な予算も支援策もついてはいません。大学が顧問に託す役割も、コンクールでの好成績をもたらすことが求められているわけではなく、むしろ練習に没頭して成績不振を招く学生が出ないように、もし出てしまったらクラブを休むように指導することが役割として求められています。ですから、私から学生たちに金賞を目指せとか、全国大会を勝ち取れなどと発破をかけたことは一度もありません。

それに音楽は芸術であり、文化であり、美の価値の追求です。吹奏楽におけるコンクール偏重は音楽をまるでスポーツ競技を競わせるようで違和感がありました。吹奏楽人口が多い中学の部、高校の部の全国大会は非常に狭き門です。全国に進出する学校はどの学校も難曲の細部をきちっと合わせ、そのテクニックはアクロバットの域に達しています。さながらダンスの振り付けをピッタリ揃えるのと同じような集中的な練習で神がかり的に合わせていきます。それはそれで大変な鍛錬の成果ですから、見事ですし、拍手を送りたくなります。ただ、そうした技術力が音楽の純粋な感動と必ずしも直結していない面があることも否めないのです。

それに本来の音楽の美を追求する心から言えば、演奏の完成度や満足度こそが喜びであるはずです。しかし、生徒たちが求めているのはやはり賞の結果です。甲乙つけがたい高水準の演奏が並び立っているとき、代表枠や金賞枠のために明暗が分かれ、結果発表の瞬間、かたや大喜び、かたやお通夜のように沈むのは、賞に比重を置きすぎて音楽の本質からずれているように感じられます。

その意味では、パイオニア吹奏楽団がコンクールに出るのをやめて、純粋にコンサート・バンドとして、文化交流や地域振興のための演奏活動を中心とする楽団になっても全然かまわないんじゃないかと思います。でも創価大学のクラブはどこまでも学生主体です。顧問が方向づけるものではありません。パイオニアは強化指定の部ではないから大学が方向づけることもありません。だからこそ、学生たち自身の自発性、能動性が活動の原動力となっています。

約20年前のある日、当時の部長だった学生が顧問の私を訪ねて来て、どうしても全国大会に行きたいんです、だからそのために必要な支援をしてほしいんです、と熱心に要請されたとき、彼の目から涙がこぼれそうだったのでその真剣さに胸打たれました。そして、話を聞きながら、単なるコンクール偏重ともちょっと違う視点があるなと心強く感じるところもありました。どうやらそれは、創価大学の建学の精神に謳われた「大文化建設の揺籃たれ」の実践にあるようでした。創価文化とはインテリではない民衆の文化です。ピラミッドの上の方からではなく大地から動かしていく力です。それがいかに生き生きと人々に活力を与え、勇気や希望といった精神的価値をもたらしていくかを、より大きな舞台で示したい、また、そのことを通して、自分たちを応援してくださる方々の恩に報いたい――彼の思いを私なりの解釈で翻訳するとこんな感じになるでしょうか。私は学生たちがどこまで本気なのか見届けなければならない責任があるように感じられ、それ以来、今日まで微力ながら支援をしてきたというのが実情です。

素晴らしい演奏をしながらも思うような結果が出なかったこともありましたが、そういうときでも自分たちの音楽への誇りを持って進んでいけるように励ましていくことも顧問の役割でした。パイオニアの学生の思いは衰退することなく、時には小さな炎のようであっても燃え続けていました。そしてそれが昨年夏以降、新たな自発能動の炎となって大きく燃え始めたように思います。そのきっかけを作ってくれたのは磯貝富治男前音楽監督でした。磯貝先生はそのことを置き土産にして本年3月退任されましたが、学生一人一人の成長を第一に考えて指導されたその心はパイオニア吹奏楽団の歴史に刻まれ、消えることはないでしょう。

そして学生の強い熱意を背景として、本年、作曲家・伊藤康英氏を定期演奏会の客演に迎えました。音楽の心を求めていた学生たちは、伊藤先生の啓発に満ちた指導から貪欲に吸収し、一気に花開いたようでした。そしてその流れのまま臨んだコンクール都大会でも、かつてないほど音楽の心を満喫し、歌い上げる練習を積み重ねていたことは感銘深いもので、吹奏楽コンクールの新たな可能性に挑戦しつつあると言っても過言ではないように感じられます。

さて来る10月27日、全国大会の大きな舞台で、いい意味でコンサート・バンドのつもりで、堂々と自分たちが磨きをかけた演奏で満席の聴衆を魅了し、その感動と満足を手土産にして、結果発表を聞く前に颯爽と帰路に就き、八王子に帰ってきたらいいと勝手に思っています。この最後のところはたぶん学生たちからは却下されると思いますが(笑)

 

パイオニア関連の話題、また後日、続きを記します。

 


東京都吹奏楽コンクール表彰式後のパイオニア吹奏楽団の学生たち

(9月9日、府中の森芸術劇場裏の公園にて)