交響曲とは古典派時代に発展した通常全4楽章からなるクラシック音楽における最大の形式である。ウィーン古典派三大巨匠として知られるハイドンが型を作り、モーツァルトが美の極致として仕上げ、ベートーヴェンが個人の感情を爆発させ最大化させた。その後シューベルトやメンデルスゾーン、ブラームス、ドヴォルザーク、チャイコフスキーなど数々の作曲家が芸術性を高めていき、マーラーでベートーヴェンの思い描いた交響曲の理想を見てショスタコーヴィチが最後の巨匠として君臨した。交響曲のみならずクラシック音楽はJ-popのように同じメロディーが繰り返されるわけでもなく演奏時間も長いものが多いためじっくり聴き込む人はあまりいないかもしれない。またクラシック音楽は何度も聴くことでその良さがわかるというものだが、交響曲は4楽章を通じての演奏時間が短くて20分程度、長くて1時間を超えるため何度も聴こうとはならないかもしれない。ただ交響曲にはただ長いからといって聴かないのはあまりにも勿体無いほどの魅力に満ちている。そこで今回は私が特に好んで聴き、また有名曲として誰もが聞いたことのある交響曲を10曲選出した。YouTubeなどで1楽章単位で手軽に聴けるため興味を持ったらぜひ聴いてみて欲しい。
1曲目はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」である。この曲は元々ナポレオンに捧げる予定であったがナポレオンが皇帝に即位したと聞いたベートーヴェンが激怒。「彼もまた俗物に過ぎなかった」と言い捨て表紙をペンで塗りつぶし破り捨てた。またこの曲は音楽史上でも類を見ないほど壮大なスケールで演奏され、演奏時間の約50分というのも従来の交響曲とは一線を画すスケールであった。そして何よりこれまで貴族の注文通りに書かれていた音楽というものに革命を起こし、音楽を通して自分の感情を爆発させたことから今日に至るまで音楽史上最も重要な作品として極めて高い評価を受けている。
2曲目もベートーヴェンの交響曲第5番「運命」である。冒頭の「ジャジャジャーン」という旋律はクラシック音楽に限らず全ての音楽の中で最も知られる旋律である。「運命」というタイトルはベートーヴェンの弟子が冒頭の旋律について尋ねた際にベートーヴェンが「運命はこのように扉を叩く」と言ったという逸話から来ていると言われている。第1楽章が最も有名だが本当の聴きどころは第4楽章にある。楽章ごとに拍手の鳴るのを嫌ったベートーヴェンが第3楽章と連続させて作曲し、ティンパニの執拗な連打によって勝利を表現している。このベートーヴェンの「苦悩を乗り越え歓喜へ」という作風は後の作曲家に大きな影響を与えた。
3曲目もベートーヴェンの交響曲第6番「田園」である。田舎を好んだベートーヴェンが「田園の生活の思い出」とタイトルを付けた。「田園」はベートーヴェン自らタイトルを付けた唯一の交響曲である。実はこの「田園」は「運命」と並行して作曲され初演は同日であった。また本来全4楽章から構成される交響曲だが「田園」は全5楽章から構成される画期的な1曲であった。「田園」の風景をただ描写するだけでなく嵐などの自然とそれに対する田園に暮らす人々の心情が美しく描写されている。
4曲目もベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」である。シラーの詩「歓喜に寄せて」に感銘を受けたベートーヴェンが書いた最後の交響曲である。第4楽章の「歓喜の歌」では交響曲に合唱を導入するという禁じ手を使い人類の連帯を壮大に歌った。「歓喜の歌」が人類に与えた影響は凄まじく日本では年末の風物詩として親しまれているが世界に目を向けるとEUが公式に「欧州の歌」と定めていたり「人類の連帯」といて著名な例でいくとベルリンの壁崩壊時に東西のドイツ人が共にバーンスタインの指揮で「歓喜の歌」を歌ったり長野オリンピックの開会式では小澤征爾の指揮によって5大陸の合唱団がこれまた「歓喜の歌」を歌うなどこれからも人間愛を象徴する1曲として歌い継がれていくだろう。またソニーの副社長が「歓喜の歌」をレコーディングできないのはダメだといい当時「合唱」の演奏として最長であった74分に収録時間を変更させたという逸話や、のちの作曲家にあまりにも大きな壁として立ちはだかったため交響曲第9番を作曲すると死ぬという通称「第九の呪い」などの数々の逸話が残っている。今後人類が100年200年と歴史を紡いでいっても音楽史における最高傑作としての地位を不動のものにしているに違いない。
5曲目はモーツァルトの交響曲第25番である。映画「アマデウス」で一躍有名になったこの曲はモーツァルトが17歳の時に作曲された曲であり雇われの身としてどう自分の感情を表現するか苦悩していたモーツァルトの葛藤が現れている。モーツァルトの41曲ある交響曲の中で後述する第40番と2曲しかないト短調の交響曲だが短調故に焦燥感溢れる1曲となっている。
6曲目もモーツァルトの交響曲第40番である。モーツァルトの41曲ある交響曲で最も親しまれており、特に第1楽章の旋律は世界的に有名である。特に冒頭の旋律は「ため息」の旋律として親しまれている。第39番、第41番「ジュピター」と共に3大交響曲としても人気を博しておりこの3曲は1788年の夏に1ヶ月半から2ヶ月程度で描かれたというエピソードもモーツァルトの天才性を象徴するエピソードである。
7曲目はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」である。世界で最も愛されている交響曲の一つであるこの曲はドヴォルザークがアメリカという「新世界」から愛する祖国チェコに贈った曲である。アメリカに新しくできた音楽大に校長として赴任して欲しいという依頼がドヴォルザークにやってきた。妻と6人の子供を養わなくてはいけないドヴォルザークにはありがたい話だったが祖国チェコへの愛が強かったドヴォルザークは何度も依頼を断るも、ついに承諾。アメリカへ渡ったがそれでも祖国への思いを捨てきれなかったドヴォルザークが書いた曲である。日本では第2楽章が「家路」として親しまれており、哀愁漂う旋律はどこか懐かしく日本人の情緒に染み入る。また世界的には第4楽章が最も親しまれており、映画「ジョーズ」を彷彿とさせる力強いホルンから始まり、これまでの3楽章の旋律が第4楽章に帰ってくるという劇的な構成になっている。
8曲目はチャイコフスキーの交響曲第5番である。第2楽章のホルンの旋律はクラシック音楽史上最も美しい旋律とも言われているがこの曲のハイライトは第4楽章である。一つの主題が全ての楽章に登場するこの曲の主題は「運命」を象徴しているとされ第4楽章では運命に対する勝利を象徴するかのように登場する。特にコーダは圧巻であり「運命」や後述するショスタコーヴィチの「革命」を彷彿とさせる勝利感に溢れている。
9曲目はメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」である。メンデルスゾーンがイタリア旅行中に着想を得たこの曲はメンデルスゾーンの交響曲の中で最も親しまれており、特に第1楽章は地中海的な開放感あふれる構成となっておりメンデルスゾーンの田園交響曲とも言われる。
10曲目はショスタコーヴィチの交響曲第5番「革命」である。ソ連のスターリン体制を厳しく批判してきたショスタコーヴィチだがスターリンの大粛清によってショスタコーヴィチの友人や親戚が次々に粛清されて行きショスタコーヴィチ自身の命も危うかったことから名誉回復のためにもこの交響曲第5番「革命」が作曲された。「革命」はかつてショスタコーヴィチの作品を激しく批判していたソビエト共産党からも熱烈な歓迎を受けショスタコーヴィチの名誉は回復された。ただショスタコーヴィチ自身が共産党体制に迎合していたかというのは現在も議論がなされており有名な第4楽章の一見輝かしい旋律も現在は強制された歓喜としての見方が強く「革命」発表後も表向きは共産党に迎合した音楽を世に出し続けたがスターリンの死後作品は徐々に過去の形を取り戻したためやはり強制された歓喜との見方は強まっている。
ここまで私自身が特に好んで聴く交響曲を10曲選んで紹介してきたがいかがだっただろうか。今回紹介しきれなかった作曲家でもハイドンやマーラー、シューベルト、ブラームスら有名な交響曲作曲家も多数いるためそちらも併せてお楽しみいただきたい。冒頭でも書いたがクラシック音楽、特に交響曲は繰り返し聴くというのが苦痛に感じる人が多いだろう。そのためまずは「運命」や「合唱」、「新世界より」などの超有名曲から聴いていくことをおすすめする。きっとあなたも交響曲の虜になるだろう。