決勝 VS F中
アップで全員が声を出す。
ぴしゃっと並ぶ。
挨拶できる。
上級生が締める。
全員坊主。
F中はライバルでありながら,どしてこうも規律の面で
N中と違うのか。長く指導をしてきた裕三にも訳がわからない。
だが,サッカーになると,彼らの真面目さは一種のドイツっぽさ
となる。
対するN中は,なんとか欺こうと癖のあることをするイタリアっぽさ
がある。
ただ,今回に関しては,F中は大昔のファンタジーのないドイツであり,
N中にいたってはギリシアとしかなりえなかった。
それほど,全体的なフィジカルの差があった。
対して力むこともなく始まった決勝戦。
空はボランチとしてピッチに立つ。
しかし,ここまで機を見ては機能していた中盤は,すっとばされる展開に。
トップのファイターめがけて,蹴ってくるF中の攻めに,前半15分までに
4回ほど決定機を作られる。
空立ちのプレスは寄せる前の前ぐらいにボーンと蹴って無効。それなら
セカンドに,と備えるも,体ごと奪い取られるように相手ボールばかりとなる。
しかし,前半,何とか耐える。
N中もタックのFKでバーをたたくチャンスがあった。とにもかくにも勝負は
後半。そして,1点で決する気がしてならないゲームだった。
後半も交代なく始まる。
やや中盤が間延びしてくると,中盤の3人が後ろからボールを引き出し,
落ち着かせることもできるようになった。
サイドへ広く展開したり,トップと呼吸を合わせて出すパスが繰り出せる
ようになる。
ここで空がフリーでもつシーンが続く。
しかし,なかなか飛び出す先にパスが出せない。1点に届かない。
残り10分。
龍コーチが動く。
空に替えてタッツ。
ファンタジスタの1発にかけた。
タッツも自分の間合いで試合に入り込んだ。
前を向く工夫があり,出せる,と思っても,ことごとく寄せられる。
パスがまとまらない。奪い取られる。
みんなが期待したスルーパスは,なかなか実を結ばなかった。
出すチャンスも限られた。
後半も残り数分。そこで,空は再びピッチへ。タッツと交替し,もとの形に
戻ったのだった。
後半はどちらもさしたるチャンスを作れず。ゲームはつぶし合いの様相を
呈していた。なんとか1点を与えず,延長に持ち込んだと見るのは,どう考えても
N中の方だった。
試合は延長戦にはいる。だれも何分であるかわからなかった延長戦は,副審に
確認したところ5分×2だけだった。もうここまでくれば・・・,と思うことがよくある
裕三だが,この試合に限っては「ぜったい勝て」としか念じていなかった。
それくらいN中の再生には,欠かせないタイトルだと思っていた。
空たちの今後の3年間に関わる1勝となるうるからだ。
延長戦は,ただただ,攻められ,見守るしかない展開だった。
しかし,なぜか入らないオーラがN中を包んでいた。
最後に相手が得たCKもセットに時間がかかったため,蹴らせないまま
ホイッスル。つきすぎやろ。
(そう思っていた後日,日本対オーストラリア戦では,あの本田が蹴らせて
もらえず。)
この審判の裁量が大きいのもサッカーの特徴である。
優勝の行方はPK戦に委ねられた。
先攻のN中はキャプテンリーオが堂々歩み出て行く。
リーオ決める。 1-0。
相手の一人目はGKがセーブ。 1-0
N中二人目はタック。GKの動きを見て,軽く決める。 2-0
相手の二人目はあっさり決める。 2-1
N中3人目は春日。低くサイドにねじ込むゴール。 3-1
相手の3人目は,PKを自分から外してくれた。 3-1
なんと4人目が決めれば勝ちだ。だが,捻挫を押して出場した
中3の先輩は,自分から外してしまう。 3-1
相手の4人目はしっかりと決める。 3-2
そしてN中5人目。足をつらせながら走りまくってきたトップの
中3。苦しい3年間の頑張り全てぶつける舞台が整っていた。
今大会,ノーゴールのエースが,今,PKの助走をとる。
笛と同時にピッチ同様かけだした彼のキックは,次の瞬間,
強くネットを揺らした。
勝った,勝った。勝ったぞー。ピッチの赤では中学生が。
ピッチの外では大人が駆け回っていた。
ジャイアントキリング達成といってもいい勝利だった。
N中復活の序章が終わった。最高の結果で。
いいじゃないか。今日はこれでいいじゃないか。
みんなやったじゃないか。裕三は,苦しかったであろう龍コーチと
真っ先に握手をした。「お疲れさん。ありがとう」
彼の指揮官の3年間分のホッとした顔を見た思いだった。
N中は変わる。裕三は,空の14番をまぶしく見つめる。
見つめていく内に,もう14番が揺れて見えなくなっていく。
こんなにサッカーでうれしくて泣くなんて。
ちくしょう。うれしいやんか。最高やんか。WOOOOW!
N中,勝ったど~~~~~~~~~~~。
今日は喜ぼう。純粋に喜ぼう。みんなみんなよくやった。