4日目の午前中は、棘皮動物(ウニ、ナマコ、ヒトデの仲間)の受精と発生(受精卵から幼生に成長していく過程)を実験・観察した。観察は、もっぱら、光学顕微鏡で行った。
細胞が動き、見る見る間にくぼんでいって、2つに分割される。しばらくすると、それらが再び分割される・・・。繰り返されて、次第に細胞は小さくなり、表面に繊毛が生え、泳ぎ始める。やがて、細胞の塊の一部から塊の中へ凹みが生ずる。『原口陥入』だ。
この発生の観察は、いつ見ても、神秘的だ光景で、見入ってしまう。
午後からも引き続き、胚発生のいろいろな段階を観察したのだが、磯でも、砂浜でも、海水中でも、採集できない『ある生き物』を観察しないと、『無脊椎動物全ての門を観察する』という目標が達成できない。
そこで、タコが登場する(写真A)。吸盤で吸い付きまわるので、網の袋に入れている。このタコから、腎臓を切り出すことが目的だ。
バットのなかにマダコ(2.2kg:でかい!)を出して、解剖前に活け締めした(写真B)。タコの頭部にある両目の間(眉間のところ)にハサミを刺して、神経節を破壊する。これで、腕が動かなくなるので、後が簡単。刺すと、すぐに腕の動きが止まり、力がなくなってきた。裏返して、頭部を縦に切り裂くと、上部に左右に豆の塊のような器官が出てくる(写真C)。これが腎臓だ(写真Cの矢印)。

この腎臓の中に寄生している生き物がいる。寄生している生き物だ。ニハイチュウという。宿主の種類によって、寄生するニハイチュウの種類も異なるそうだ。腎臓を摘出し、ハサミで小さく切って、その組織片をスライドガラスにスタンプして、海水を滴下して、カバーガラスをかけて、400倍くらいで検鏡すると、動き回るニハイチュウがウジャウジャと観察できる。
マタコは、今夜の打ち上げコンパに利用されるので、早々に実習室から厨房へ移動した。
夕方まで、今までの採集物を観察・スケッチして、胚発生のステージを観察して、ニハイチュウを観察して・・・。実習の後半は、観察とスケッチに明け暮れる。夕食前に、干潮時の磯に移動して、採集試験が行われる。
『5つの動物門に渡り、8種類の生き物を採集してくること』
合格すれば、実験所に戻って、コンパの準備だ。
実習生は、磯に散らばり、次第に暗くなる中、必死に探しまわる。
残念ながら、ボクは、本学でセミナーがあり、それに参加するために、この試験が始まる前に実験所を後にした。コンパにも、参加したかったが・・・・。
夜が明けて、最終日。
午前中は、棘皮動物の胚発生の観察が続けられた。しかし、それも昼前に終了し、片づけが始まった。缶津に使った容器類の片付け、ライトの片付け・・・。実験台が広くなったところで、顕微鏡の分解掃除とグリスアップをした。塩水が着きまわっているので、ちゃんと掃除しておかないと錆びてしまうからネ。
終わったら、宿泊した部屋の片付けと実習場所の掃除。
昼ごはんを食べたら、いよいよ、桟橋の解体、陸揚げだ。

採集場所へ運んでもらった船を係留していた浮き桟橋を、使わないときには陸揚げしておくのだ。
アンカーに繋いでいたロープをはずし、岸近くまで引っ張ってきて、吊り上げようのベルトをかけて、クレーンで上げて、側道においた台車に乗せて、敷地内へ運んでいく。
巨大なUFOキャッチャーのように見えるが、クレーンの運転も、ベルトの玉掛けも、免許と資格が必要なので、学生たちは道具運びと浮き桟橋の移動の手伝いをしてもらうだけ。
でも、自分たちの実習のために、どんな準備が必要だったのか知ってもらえたように思う。
この実習、終わってしばらくすると、後悔する学生が出てくる。
「もっと、生き物をたくさん観察しておけばよかった。」
ボクは、その後悔した学生の一人であり、その後悔はつきなくて、今に至っている。
さて、次回からは、この実習で見ることができた瀬戸内海の無脊椎動物を紹介していこうと思うので、お楽しみに。
そうそう、ホタル観察会のアンケートもよろしくね。( → こちら )