ゲンジボタルは、卵から幼虫、サナギを経て、成虫になり、産卵して死ぬ。いわゆるゲンジボタルの一生だが、この期間、寿命はどのくらいだろう?書物では、多くは1年、中に数年と書かれているが、長くても3年ほどらしい。しかし、この1年から数年の寿命を決めているのは、成虫ではなく、幼虫が春先に上陸するかどうかできまる。上陸しなければ、翌年まで幼虫のままということになる。ホタルの生涯の大部分の期間を幼虫の水中生活が占めている。セミ幼虫のの土中生活が長いのと同じような気になった。


 昨年のゲンジボタルの個体識別調査で、野外におけるゲンジボタルの成虫の寿命が分かった。600匹ほどの平均は6日、最長は12日だった。飼育下では、3週間近くまで、一匹も死ぬことがなく、平均20日、最長25日だった。


 この差は、なんだろう?


 仮説として、飼育下ではアクシデントがないが、野外ではアクシデントがあるため、天寿を全うできないのだろうということが考えられる。


 そこで、昨年のデータを見直すことにした。


生存曲線  まず、マーキングした日を0日とおき、0日目の個体数を100%として、経過日数ごとに、何%生き残っていたのかをプロットした。生存率を対数軸で表している。0日目のマーキング個体数が30匹以上の実験群を解析に用いた。

 結果は、図1に示した。赤点が平均生存率を示している。それ以外の点は、各実験群の結果を示している。生存率は、経過日数が増えるにともなって、ほぼ直線で減少している。


 回帰解析すると、


 N = 100・e-0.54x    ・・・(式1)

 R2 = 0.98


  ただし、

    Y : 生存率

     : 経過日数


と表せる。

 式1が示していることは、初日(0日目)に100匹のゲンジボタルがいたとすると、翌日には58匹、2日目には34匹くらいになり、3日目には20匹くらいに減り、9日目にいなくなるということである。

 フィールドで実際に用いるときには、式(式1)の変数を少し換えて、


 N = N0・e-0.54t    ・・・(式2)


  ただし、

     : t 日目のゲンジボタルの生存数

    0 : 地上に出てきた初日のゲンジボタルの数

      : 地上に出てきてからの経過日数


と表わす。


クモの餌食 先に述べた仮説を検証していこう。溺死、農薬(除草剤や殺虫剤の噴霧)による薬殺、人による踏殺、天敵による捕食等が考えられるが、始めの3つは、常時起ることではないため、生存率が直線で減少することの原因ではありえない。天敵による捕食は、日常的なアクシデントとして起りうる。実際に、調査中でも、クモ類による捕食(図2)やコウモリによる捕食を頻繁に目撃する。このグラフの傾きを決めるものは、単純に考えると、天敵の数、クモやコウモリの数だといえる。

 このことは、グラフを、さらに解析すると、そのように思えてくる。ピンク色の点が、7日目を過ぎた辺りから、傾きが緩やかになっていることが目に付く。これは、ピンク色の点の最初の頃は、30~40匹程度だったので、天敵の捕食数とゲンジボタルの発生数が傾き0.54でつりあっていたのだが、6日目あたりからホタルの発生数が、80~120匹くらいになって、捕食数は一定だが、ホタルの発生数が増加したため、ピンクの点の実験群の捕食数が希釈されてしまったと説明できる。

 そのような説明で、グラフを再検査すると、ピンク色の8日目辺りで羽化した実験群(青い十字)では、最初から、ピンクの7日目以降の傾きと同じであることが分かった。


 ということで、野外におけるホタルの生存については、大筋ははずしていないと考えているが、グラフを書き直して、細かいところを再考察しないといけないことが分かった。

 やれやれ・・・。


そうそう、この話って、集団としての生存の話であって、ゲンジボタル一匹、一匹の寿命の話ではありません。ゲンジボタルを捕食する天敵としては、ほかにカマキリの仲間、アリの仲間がいます。