世界市民の良識ある声に関わらず一向にやまぬイスラエルの蛮行。あるいはロシアとウクライナの戦争。

世界から民主主義と平和主義に対する失望の声も聞こえてくるようになりました。

もちろん見直しが必要なことも多々ありましょうが、では世界の良識は「死んだ」のか?

いや、決してそうではないということが本書を読めば分かるかも。



岡田温司著「反戦と西洋美術」ちくま新書より。


というわけで、本書がいきなり紹介するのがあのルーベンスの絵画🇳🇱

そう、あの名作アニメ フランダースの犬で主人公ネロが一目観ることを熱望していたあの画家😢


ちょっと絵画に詳しい人なら、ルーベンスって実はいわゆる御用画家。権門から注文されたままにデカくてゴージャスな絵を描くだけ。わざわざ命をかけてまで観るような "芸術" じゃない(だからネロはダメなんだ)とか何とか解説するかも。いや、わたしもするかもですが……😅


しかし著者によれば外交官でもあったルーベンスは戦争の悲惨さを知り、戦争の災禍を描く人でもあったと。

ギリシャ神話のモチーフを借りて三十年戦争の災禍を描いた〈戦争の結果〉という作品は、後世の戦争の表現にもかなりの影響を与えたといいます🖼


……て、ことは17世紀前半の作品ってことですね。日本にも、同時代に起きた大坂夏の陣を描いた大坂夏の陣図屏風(黒田屏風)が 戦国のゲルニカ なんて呼ばれたりするから似たような発想があったかも👇



最初は神話にモチーフを借りて。やがては直接戦争の被害を描くように。それは戦場に画家が直接赴くようになったということ。

より多くの人が戦争に駆り出されるようになったことを意味します🪖


そこに描かれるのは敗北の悲惨さ。あるいは戦争の勝敗に関わらず悲惨な生活を強いられる庶民の姿、拷問や虐殺、犠牲になる母子😢

今の光景と何ら変わるところがないかも😭


やがて第一次世界大戦を迎えると帝国主義と植民地支配の矛盾という視点も加わります。

遠くアフリカからヨーロッパの戦場に駆り出される傭兵。人種差別に圧政。搾取で私腹を肥やす強欲な資本家や恥を知らない政治家。


核時代になると勝者も敗者もなく戦争後にはただそこに廃墟があるだけということにもなります。そこで描かれる虚無そのもの🕳

自らの醜さや暗黒面と向き合う内省的な絵画が増え、その分だけ絵画が難解になってきたといえるかも😅


さらに現代は反性暴力=フェミニズム的な作品も増えてきました。その辺りは同じ著者の👇も参考にしていただくとありがたいです。


本著では言及がありませんが、今後はAIなどによる画像処理を用いた、ディープフェイクの問題が浮上するような気もします。

キャプションを変えればそっくりそのまま戦意高揚の絵画にもなるなんて批判されることもある "反戦絵画" 。

だからこそ描く側の意図、あるいは観る側の記憶が問われるのだということになりましょう。それは自らのトラウマと向き合うことでもあります。



いろいろな作品が紹介される中で一番わたしの印象に残ったのは第一次世界大戦で顔に大きな傷を負った人のために作られた人工補綴(マスク)を展示したもの。


絵画を通じてわたしたちは、わたしたちに何が欠けているかを知ることができます。それは知識では埋められない感覚や感情を揺さぶるもの。

だからこそアートはまだまだやれることがあるというのが本著の結論かもしれません。


最近は活動家から偽善的だとトマトスープをかけられることもありますが😅それも含めてこれからも反戦は変わらずアートの主題となり得ることでしょう。







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