はるか悠久の昔、人類文明のゆりかごとなった古代メソポタミア
その文明を受け継ぐオリエントとは西は地中海沿岸、東はインドまでも広がる広大な地域

様々な人種に、様々な文化、様々な国家を抱えたオリエントは、同時に一神教から多神教まで様々な宗教を抱える地域でもありました

逆にいえばオリエントとは様々な宗教が、ありとあらゆる手段を用いて布教しあう宗教の総合格闘技のリング
その最終的な勝利者になったユダヤ教→キリスト教→イスラームの系譜「聖書ストーリー」と、その強敵と書いて “とも” と読むライバルたちの興亡にスポットを当てたのが本書


青木健著「古代オリエントの宗教」講談社現代新書より

序章にて概略を述べたあと、第1章にて語られるのは現代も少数ながら信者を抱えるマンダ教
もともとこの地域に顕著な神秘主義思想 グノーシス主義のもと誕生し「聖書ストーリー」に激しく反発しながらも、その勢力に次第に圧迫されました
最終的には部分的に「聖書ストーリー」を取り入れ、洗礼者ヨハネの教え人を名乗ることでキリスト教でもなくイスラームでもないアイデンティティをかろうじて残します

第2章はマーニー教。マニ教といった方が通りがいいような気もしますが
もともとは本場エルサレムでキリスト教団のもとに生まれた教団
宗教の坩堝 メソポタミアで布教して行くうち仏教やゾロアスター教の影響を色濃くうけ、自らを真のキリスト教と定義し、地中海世界の原始キリスト教団に布教のガチンコ勝負を仕掛けます
結果はゾロアスター教と原始キリスト教団の挟み撃ちを受けあえなく敗北
なぜか仏教の一派となって、一部でまだ細々と教団を維持しているともいないとも……

第3章はゾロアスター教。もともとペルシア地域で土着の宗教として生まれ、確固たる教義はなかったといいます
ニワカごしらえで教義を整え、マーニー教、キリスト教に対抗しますが、キリスト教の教義の緻密さに及ぶべきもなくあえなく敗退です😢

第4章はミトラ信仰。もともとはアルメニアの土着宗教。全くの新興勢力として「聖書ストーリー」の世界に殴り込み


あえなく敗退するものの、伝説や物語の形で伝統的なキリスト教団と今でも共存しています
一説ではミトラは仏教の弥勒菩薩のモデルだとも🙏

 第5章はイスラームの神秘主義派。その一派 イスマーイール派は一時オリエント最大の勢力となってファーティマ朝を設立します
引き続く第6章でイスマーイール派はゾロアスター教の残存勢力を吸収し、まさに最終的な勝者になるかに見えました……

しかし多数の宗教勢力を飲み込んだその過剰な想像力はかえって内部分裂を起こす原因となり、複雑すぎる教理は民衆との距離を作ることになりました。神秘主義はエリート主義に堕しイスマーイール派は少数派に転落です😢

最終的にはコツコツと教理を積み上げてきたスンナ派イスラームがこのオリエントの覇者となりました🏆

著者はこれによりオリエント地域の宗教的想像力が安定したと指摘し、坩堝が冷えた状態としています
しかし、それは本当でしょうか???

下の記事👇でも書いた通り、宗教というものは “生きている” のです

今は下がった熱量もいつか何かで上がるかもしれず🤒

そういわれて考えてみれば、ネットでスピリチュアルなサイトを開いてみれば、滅んだはずのグノーシス主義に傾倒する人々を今でも数多探ることができるはずです

あるいは世界中に信者を急速に増やすイスラームが再び土着の宗教を取り入れるケースがあるかも知れず

先のことは誰にも分かりません。わたしたちが今信じている “宗教” は、長い宗教の歴史のほんの一瞬を切り取った狭い範囲のもの

100年後にわたしたちが信じている宗教がそのままである可能性は、かえって低いものと考えた方がいいでしょう