ジャータカとはブッダの前世譚……に態を借りたインドの説話集。


紀元前数世紀ころ民間に伝わっていた説話が、紀元前一世紀ころから仏教説話としてまとめられ、五世紀始めには今の形になったとされています。
主には南伝と言われるパーリ語経典にまとめられていますが、その他の大乗経典にもエピソードとして独自の前世譚が挿入されていたりします。

本書はパーリ語経典にまとめられたジャータカ547篇の中から30篇を抜き出して子ども向けに訳したもの。

もともと世界中の説話はその起源をインドに求めるなんて説もあるくらいで、たとえば本書に収録された「ワニとサル」は日本の昔話「クラゲの使い」にそっくりです。

有名な「ウサギの施し」を始め、案外聞いたことのあるような話も多いかも。


飢えた僧侶に扮した雷神インドラにウサギが自らの身を食物として捧げ、その功徳によって月にウサギの模様が刻まれる話です。

全体に道徳的な話が多いのは仏教説話の性質からして当たり前かもしれませんが、「カニとゾウ」みたいなだまし討ちの話もありユーモア譚もあり。散文もあり韻文もあり。

「なくした魔法」のようにカースト制を真っ向から批判した話もある一方、全体的に女性の存在は軽んじられがちな側面も。

子ども向けのお話であるものの、書かれた世界は生々世々、生まれ変わり死に変わり、身を粉にしても善根を植え、悪因から離れようとする素朴で力強い信仰心。

大人が読んだら道徳を超えた部分で倫理観を揺さぶられる瞬間があるかもしれません。