全米ソフト大学選手権の仕組みを改めて見て行こう。前提として、アメリカの大学選手権は、日本みたいに一堂に会して、ではない。
ソフトなら一次、二次予選を勝ち上がった8大学しか参加できない。
一次予選は64大学が参加できる。
アメリカには一流とされる大学は300ある。300大学は32のリーグに分かれている。
そのリーグを優勝した32大学は自動的に一次予選に出られる。
では、残り32大学はどうやって決めるのか。
これまた前提として、32リーグの中でも、有名大学ばかりがメンバーの5つのリーグ、五大リーグがあり、パワー5と呼ばれる。
SEC、BIG12、BIG10、PAC12、ACC。
優勝できなかったが、このパワー5のリーグ上位大学が、一次予選では優先的に選ばれる。
例えば、東南部の13の有名大学でつくるSECリーグ。SECリーグの大学は最下位さえならなければ、たいてい、一次予選には出られる。13分の12、だから、かなり優遇されている。
昨シーズンのケースでは、一次予選に出られた大学は、SEC-12、BIG12-6、 PAC12-6、ACC-6、BIG10-4。
パワー5で、残り32枠のうち、29を占める。うち、12がSECだから、やはり、弱くても出られるSEC優遇が目立つ。
これで一次予選に出られる64大学が揃った。
次は、うち16大学をシード大学にして、順位付けする。
昨シーズンはこんな感じ。
第1シードから第16シードまで選び、それを1つのブロックとして、ブロックごとに3大学を当てはめる。それで4大学のブロックが16個できる。
これをトーナメント表に落とし込む。
第1シードから第8シードまでの大学は、全米選手権本選まで当たらないように、対角に配置される。
だから、強豪大学は第8シード以内に入ることを目標にする。
ここで最大の問題が生じる。アメリカのあらゆるスポーツで起きていて、みんなの不満のタネになっていること。
それはシード順位が、全米大学体育協会NCAAの密室会議で決められること。さらに、順位決めの基準が明らかにされないこと。
以前は、もっと露骨に、お金持ち有名大学でつくるSECリーグの大学が優遇され、シード順位の上位を占めた。
理由は、ファンの多いSECリーグの大学が全米選手権に出た方がテレビ視聴者数が増えるから。
しかし、親の心子知らず。数年前、異常に優遇されたSECリーグの大学が、ことごとく、一次予選、二次予選で負けてしまった。全米選手権本選に出たのは1大学のみだった。
当然、実力を伴わない優遇に、内部でも批判があったと思う。しかし、今もSEC優遇をやめたわけではない。さすがにリーグ下位大学を、シード上位大学にはあまりしないが、明らかに、他リーグよりもシード順位を上にしている。
ようは、他リーグの2位とか3位よりも、SECの4位をシード上位にして、全米選手権本選に出やすくする。
最近は特に、ソフトだけでなく、アメフトでも、アラバマ大学優遇が目立つ。よほど、NCAAの幹部の中にアラバマ大学関係者が多いのだろう。
アメフトは酷かった。アメフトの全米選手権は4大学しか出られず、密室選考になる。ACCリーグ全勝優勝のフロリダステートを落として、SECリーグ優勝のアラバマを入れた。
ありえない。フロリダステートは全勝だから。誰が見てもおかしい。そこでアメフト選考委員会が強引に考え出した論理とは。
たしかに、フロリダステートは全勝優勝した。しかし、リーグ終盤、エースクオーターバックがケガをした。全米選手権には間に合わない。エースクオーターバックのいないフロリダステートは、今のアラバマより弱い。だから、アラバマを選んだ、と。
めちゃくちゃ。リーグ戦の結果、ガン無視。いくらエースクオーターバックがケガをしたとはいえ、全勝は変わらない。どうしてもアラバマ大学を出したかったから。
しかし、全米アメフト大学選手権では、アラバマ大学は、1戦目でワシントン大学に敗退した。親の心子知らず。
ソフトもそう。昨シーズンは、アラバマ大学をどうしても出したかったから、実力よりもシード上位にした。
アラバマ大学はリーグ4位、その後のトーナメント4位。しかし、全米選手権のシード順位は全体の5位。SECではリーグ、トーナメントダブル優勝のテネシーに次いで、2番目に高かった。2番目に高くしたのはいいとしても、全体の5位は明らかにおかしい
まあ、そんなこんなで、一次予選は64大学で争い、16大学に絞られる。二次予選で8大学になり、その8大学がオクラホマで開かれる全米選手権に出られる。
なぜ、オクラホマなのか。それは全米ソフト協会の本部がオクラホマにあるから。聖地化している。しかし、これも問題あり。
全米選手権が開かれる殿堂スタジアムはボロボロ、3000人くらいしか収容できない。さらに、オクラホマでいつもやるから、観客の9割がオクラホマ大学ファン。オクラホマ大学以外のチームは完全アウェー。
全米選手権はソフト界最大のイベント。ソフト人口の多いカリフォルニアやテキサス、フロリダでやれば、もっと観客が入るのに。ほかの全米選手権は毎年、違う場所でやっているのに。
で、8大学で争う全米選手権なんだが、アメリカらしく、フクザツ。一発勝負ではない。敗者復活戦あり。ようは1回は負けても大丈夫なのだ。
2021年の全米選手権。開幕戦は、地元オクラホマ大学と、初出場のジェームズマディソン大学。
なんと、ジェームズマディソン大学のエース、アレクサンダーが快投し、オクラホマ大学に勝った。スタジアムの大半を占める3000人のオクラホマ大学ファンはシーン。
しかし、オクラホマ大学は敗者復活戦を勝ち上がり、再び、ジェームズマディソン大学と当たり、これを撃破した。
昨シーズンは。
以上、全米大学選手権の仕組みを説明した。
アメリカと比較すると、日本は平等。例えば、大学野球。各地域の各リーグのチャンピオンしか、全日本選手権には参加できない。
東京6大学や東都、首都、関西学生野球のレベルがいくら高くても、参加できるのは優勝1チームのみ。なんて平等なんだ。
さらに、一番厄介なのは、繰り返すが、密室でのシード大学指定と、シード順位決め。基準を明らかにしないから、説明しないから、昨シーズンのアラバマ大学優遇のように、いつも不可思議なことが起きる。
そして、問題はメディアの沈黙。メディアにとって最大のコンテンツは、大学スポーツ中継。それを仕切っているのはNCAA、NCAAを支配しているのはSECなのだ。
メディアでNCAA批判はあまり聞かない。アメフトでのアラバマ大学優遇、フロリダステート冷遇も、すぐに鎮静化した。マイナー競技のソフトで不可思議なことがあろうが、メディアは全く関心がなく報道しない。
アメリカ大学スポーツの闇は、密室でのシード順位決めにあり、なのだ。