今シーズン、全米トップクラスの豪速球ピッチャーがヒタチに入る。









ドニーゴーボーン。昨シーズン、サウスカロライナ大学エース。卒業後は、プロのオクラホマスパーク。











ゴーボーンは、ほかのエリート選手とは経歴が違う。アメリカの一流大学の選手は、恵まれた家庭環境、だいたい中流階級以上の出身。中学高校とは別に、名門クラブチームに入り、小さい頃から全米遠征。カネがかかる。


クラブチームで活躍すれば、大学スカウトの目に留まり、大学のエリートキャンプに参加。高校2年時にスポーツ奨学生契約をする。これが一般的パターン。


しかし、ゴーボーンは違う。小さい頃からソフトボールをしたが、名門クラブチームには入っていない。高校時代は、主にショートを守り、たまにピッチャーをやった。


詳しくはわからないが、あまり、環境が良くない地域で育ったみたい。アメフトで優秀な友だちが、悪い道に陥るのをたくさん見た。しかし、ゴーボーンにはソフトがあったため、そうした道に行かなかった。


4歳のとき、両親が離婚。母親に育てられた。母親はカフェのマネージャーとして懸命に働き、ゴーボーンらに不自由させないようにした。もちろん、クラブチームで遠征などの余裕はなかった。


しかし、抜群に肩が強く、運良く地元の短期大学ソフト部から声がかかり、そこに入った。大学に入ってから初めてピッチングの指導を受け、ピッチャーとして本格的に練習した。才能が開花し、短期大学リーグで活躍した。


すると、地元の一部リーグ大学のフロリダアンランティック大学から声がかかり、移籍した。








フロリダアンランティック大学は弱くはない。



昨シーズンランクは全米92位。短期大学の選手からすれば、ディビジョンワンと呼ばれる一部リーグの大学の選手になるのは夢だ。その夢が実現した。


しかし、成績は芳しくなかった。





まさに、豪速球ノーコンピッチャー。22年は64イニングで、四死球60。ただし、三振とりまくり、89個。


しかし、ゴーボーンの豪速球に、ある監督が興味を持った。




最大SECリーグのサウスカロライナ大学のスミス監督。もともとはノースカロライナ大学キャッチャー。ピッチング指導もする。


SECリーグ万年下位に近いサウスカロライナ大学は常にピッチャー不足。ゴーボーンに類稀なる才能を感じたスミス監督は声をかけ、ゴーボーンはサウスカロライナに移籍した。








短期大学出身の選手が、有名大学ばかりのSECリーグの大学に移籍することは、極めて珍しい。ゴーボーン、2つ目の夢が実現した。


サウスカロライナに入ってからは、スミス監督がつきっきりで指導した。豪速球をいかすため、チェンジアップも習得した。ゴーボーンによると、スミス監督の指導で、球速が8キロ以上アップしたらしい。コントロールも向上した。


球速は110キロ台後半になった。アメリカの一流大学ピッチャーでも、110キロ台はそんなにいない。110キロ台後半ともなると、スタンフォードのキャナディ、テネシーのピケンズくらいか。


2023年シーズンが始まると、豪速球とチェンジアップを武器に、ゴーボーンは快進撃。






強豪フロリダ戦では1安打、15三振。全米に名前が知れ渡る。




サウスカロライナ大学バスケ部監督で、アメリカバスケ界のスーパーレジェンド、ステーリーもスタンドに駆けつけた。



23年シーズンは。




14勝7敗、防御率は2.24。




134イニングで、三振202個。全米トップクラスの三振数だった。






大学卒業後は大学院に通いながらソフトコーチをしようと考えていたゴーボーンだが、プロソフトのオクラホマスパークがドラフト指名した。まさか、自分がプロ選手になれるとは思っていなかった。3つ目の夢が実現した。




サウスカロライナ大学に移籍する22年の夏休みは、マクドナルドでバイトした。その1年後、プロソフト選手になった。まさに、アメリカンドリーム。


そして、今回、太平洋を渡って日本のJDリーグに入る。4つ目の夢が実現した。


日本のJDリーグに来るアメリカ人選手はエリートばかり。ジュニア時代からアメリカ代表経験あり。アメリカ代表経験が全くなしで日本リーグに来るのは、ゴーボーンが初めてかもしれない。


ただし、問題はコントロール。昨シーズンも、四死球は81個。ゴーボーンにしてはかなり減ったが、一流ピッチャーにしては多い。日本リーグ来たてのフーバーみたいな感じかなあ。ソフトファン歴が浅くて知らないが。


ヒタチは、ピッチング担当のクリタコーチ、トーキョー五輪金メダリストキャッチャーのキヨハラコーチが退団したから、誰が指導するだろうか。イズミマネージャーかなあ。それとも、キャッチャーのムリポラが鍛えるのか。


で、ゴーボーンには5つ目の夢がある。それは昔からの夢。故郷フロリダで青少年少女カウンセラーになって、非行防止に取り組むこと。そのために大学時代はずっと、刑事司法を勉強した。若い人を助けたい。事態が悪くなる前に助けたい。地域に恩返ししたい。そう願っている。















しかし、ソフトで活躍すれば、5つ目の夢を実現するのは先になりそうだ。