今週の日経ヴェリタスの記事にO氏のコラム定年楽園の道のなかで「老後の基本は「投資」より「長く働くこと」」という意見が掲載された。曰く老後の三大不安は①「健康」②「お金」③「孤独」であり、それらがことにより解消されるという。そして遊ぶために楽しく働いてO氏自身は70才まで年金を繰り下げてその支給金額の多さに驚いたという。要すれば、働けるうちに月10万円(夫婦だと20万円)でも良いから働いて、遊ぶ金に回そうという趣旨である。

 

 ここで気になるのはO氏自身が資産運用のアドバイザーであるのにも関わらず、50代60代の人には投資は不確実で難しいという固定観念があると見られる点である。投資で失敗して退職金や運用資産を取り崩すような事態を回避するため、リスクを取るのを回避する代わりに確実に収入になる労働を勧めているのである。

 

 私自身は62才で会社役員を定年退職して就職活動を約1年にわたってやってみたが、コロナ禍で世の中が騒然とするなか、何度も何度も会社面接に足を運んだりオンライン面接に臨んだものの挫折を繰り返し、希望する監査役という職種に辿り着くことが出来ず、企業トップの冷徹かつ我儘な採用スタンスを思い知り、これ以上時間と労力を無駄にし転職のために社長に媚びることによるストレスを回避するために就職活動を諦めるという選択をし、有体に言えば挫折を味わった。

 

 斯くして最善の選択は出来ず、心ならずもいわゆる次善の選択としてFIRE(Finanncial Indepenndennce Retire Early)の道を選択した。それによって得たものは何か、最大のメリットは時間である。有り余る時間を使って昼過ぎまで毎日ジムに通い有酸素運動と筋トレに努めていると引き締まった筋肉質かつ贅肉を落としたアスリート体形を手に入れることが出来た。好きなことだけをしているのでストレスもなくO氏の言う①「健康」を手に入れることが出来た。また、前の会社の退職金を種銭に監査役時代の収入をつぎ込んで10年掛けて日本株のポートフォリオを作り上げたので、相応の配当収入を手に入れることが出来るようになった。しかも余裕資金を株式に再投資しているので金融資産を取り崩すどころか、複利効果によって年々運用資産は増大している。斯くしてO氏の言う②「お金」も相応に手に入れることが出来た。また、会社勤めをしていないのでそれなりに社会性がなくなった点、勤労による社会貢献による充足感がない点は否定しないが、趣味のソフトボールで週末は多忙だし、好きな麻雀では3つのグループに属しており月に3~4度は卓を囲み、その他に飲み友達も相応に居る上に、娘三人に娘婿、孫四人計11人に増えた家族との交流頻度も多いので③「孤独」とは無縁の生活である。

 

 こう考えると働かずして①「健康」②「お金」③「孤独」の三大不安を払拭できるのならば働かないこと、FIREこそ最高の人生選択ではないだろうか。有り余る時間を地道に健康管理に費やし、(まだ嫁さんがフルで働いているので)専業主夫道を務め、余った時間で好きな趣味(その他歴史・クイズ・英語・投資本を読むこと等)を楽しむことが出来ればこれに越したことは無い。

 

 そして、私の充実した現在が有るのは一重に投資に真剣に取り組んだ結果である。50台半ばにして株式投資を開始し、10年以上かけて常にリスクを取り続けてきたからこそ、今その果実(リターン)を享受することが出来る。その意味で「50~60代からの本気の株式投資開始は決して遅過ぎることはない」というのが身をもって体験した私なりの結論、O氏への反論である。(了)