Sは一人、ハイボールを飲みながら待っていた。
「今日もまただろうな…」と小声で呟く。
「納得できない」
「どうして?」
「嘘ばっかり」
一人、飲むハイボールの酩酊が、いつもの女の責める言葉を幾度も反芻させる。
炭酸の苦味が喉元を荒らしながら落ちて行くたびに、苦い思いがこれからくる女の言葉を思い起こさせる。
「俺は本当に愛している」
「朝湯船に浸かりながら君のことだけを思い返している」
「寝る前にベッドで顔を思い返している」
Sは湿った喉から絞り出すようにいつもの自分の言葉を口にしてみた。
幾度言葉を紡いでも足りない。
どうしても伝わらないのは何故なのだろう。
女が扉を押して入ってくるのがガラス窓の暗闇に映った。
笑顔を輝かせながらゆっくりと近づいてくる。
「もう一度」とSは思った。
ハイボールを片手に、ゆっくりと顔を上げる。
今日会えているこの幸せだけでも言葉にして伝えようと。
