女は繰り返しSを責めていた。
Sは繰り返し同じことを答えていた。
2人の諍いはいつも最後は同じパターンを繰り返している。
生涯で何千杯目の赤ワインがSの喉を流れていく。
「でも、今日この日だけは…」
とSはいつものように思う。
今日感じるその美しさ、香りの豊かさ、口に含んだ瞬間の味わいの豊穣さ。
いつ消えるかわからない。
この日のこの素晴らしさはこの一瞬にしかないのだから。何千杯目の素晴らしさを味わえるのは今しかないのだから。
女の目を見つめながら、ワインを流し込みながら、Sは脳漿の中に、今日全身で感じている想いを刻みつけている。
