Sはカフェで女を待っていた。
カップに入れたコーヒーが湯気を立てている。
この日は前日の夜、二人のあいだにかなり深刻な諍いがネットのやり取りで起き、Sはほとんど一睡もしていない。コーヒーを口に含むと苦い味わいが、深夜の寝床の疲弊を思い起こさせる。
ガラス越しに女の姿が見えた。いつものように髪を束ね、鋭角に折り曲げた腕にハンドバッグをかけ、拳を反転させる独特のスタイルで乗り込んでくる。ちらりとSの顔を伺う表情にすでに笑みが溢れている。
甘い味付けのラテを注文すると、女はSの隣の席に座った。
「昨日書いたことは本気ではないの。困らせたくなっただけなの」
目線を下に向けたまま女は、軽く謝罪した。
白い肌に微かに赤みが差し、膝と膝が少し当たる。
「今夜」とSは思い、コーヒーを口に含んだ。
