交渉人
マンションのエントランスホールの大きなガラス窓が割られた。
鋼線入りのガラスだったので、大きなヒビが入っただけで
破片が飛び散るような割れ方ではなく、けが人も出なかったのだが
これを、管理組合として放っておくわけにはいかない。
理事が集められ、防犯カメラの映像を検証する。
ちょうどカメラには写っていない箇所の出来事で
「犯人」はわからなかった。
ただ、その時間、その近くにいた人物を特定することはできた。
「どうしますか?」
管理会社の担当者が理事たちに尋ねる。
方法はふたつ。
・犯人を追及して弁償させる。
・犯人探しはせず、グレーな人物に実情を告げる。
実際にガラスを破損した現場が写っていない以上
犯人探しはできないのではないか、というのが大方の意見だった。
では、怪しい人物に、これからの注意も含めて話をするのか。
どうやって?角が立たないようにできるのか?
「限りなく怪しいからといって、その人がやったということは決められないのでしょう?だとしたら、防犯カメラに写っていた人たちに情報を伺いたい、という方向で話をするしかないのでは。たとえ実際の現場を見られていなくても、防犯カメラに写っていた、という事実が伝わるだけでも十分じゃないですか」
私の話に、皆はうなずくのだが、どう話を持っていくのか、自分にはできるのか
決めかねているように、黙っている。やることは決まってるのに話がすすまないので
「私が話しますよ」
アタタ、また言ってしまった。
「では、別なカメラに写ってた、付近で遊んでた子たちには、私が訊いてみます」
と、理事長。(ちなみに私は副理事長(^^ゞ)
話し難いのはなぜだろう。
「こちらはそのつもりでなくても、誤解されたらイヤだし」
決して、その人を責めるつもりで話すわけではないということを
伝えるのは難しいことなのだろうか。
「そのつもりはない」と言いつつも、言葉や態度の端々に
疑いが濃厚、ということが出てしまうから相手も反発してしまうのか。
事実を淡々と公平に話すことって、けっこう難しいのかもしれないな。
相手を責めるのではなく、相手のためを思って話す。
そういう話し方をしなくてはいけない機会、普段はそう無いのかもしれない。