噂のキツネ
休憩が終わって店に戻ると
店長が珍しく興奮して言った。
「久々に大きいよ」
「?」
「俳優のNって知ってる?」
「ええ」
「今度結婚するんだって」
「はあ」
奥から先輩が出てきて言葉を継いだ。
「結婚式の引き出物、うちのお店を使いたいんだそうよ」
「え!それはすごい」
「でしょ?」
「さっき、式場のほうから電話があってね」
「持ち込みになるから、今度打ち合わせしたいって」
「ほぅほぅ」
芸能人の結婚式、規模も大きいし話題性もあるし
本当に久々に、大きな仕事だった。
「で、明日、奥様になる人がここに来るそうよ」
「え!」
「何がいいか、見に来るんだって」
「そうなんだ・・・」
「残念だったね」
そう、明日はお休みをとっていた。
「どんな感じ?」
前の日に、婚約者がきて
披露宴の引き出物の品定めをしているはずだった。
「ん~~~~・・・・・・。」
「?」
接客した先輩の表情が曇っている。
「イメージと違ったの?」
楚々とした大和撫子な感じだったけど、週刊誌では。
「あれはねぇ・・・・」
先輩は理解できない、と言う風に頭を振った。
「ホントにあの人と、結婚するの?って感じ」
「え?」
「なんというかね、・・品がない」
今ひとつ、具体的な感想じゃないんだけど
今までたくさんの人を接客してきた彼女が言うのだ。
あまり、感じの良くない人だったのは、確かなのだろう。
「ちょっとね、今回の結婚、あやしいかもよ」
先輩の予感は当たった。
結婚式の直前で、婚約が解消されたのだ。
「引き出物は、仮押さえだったから、まだ大丈夫だけどさ」
店長がまいったな、とつぶやく。「式場のほうは、キャンセル料とか、いろいろ大変だろうな」
なぜ、婚約解消になったのか、それは週刊誌を読んでも
今ひとつハッキリとはわからなかったのだが
先輩の話を聞いた感じでは
キツネの化けの皮がはがれた、というところなのかもしれない。
本人だけじゃなくて
夫になる予定の人と一緒に、ここに来てたら
私たちも、だまされてたことだろう。 たぶん、いや、きっと。