ある時、梅田支店長は顧客から所有不動産売却と買い替え物件を探すように依頼されました。

うかつにも支店長は、たまたま来店立ち話をした男にその情報を話してしまいまた。


実はその男、ヤクザモドキだったのです。


数日後、銀行の紹介で不動産の買主が見つかったとの話をどこからか聞きつけたヤクザモドキが銀行に乗り込んできたのです。

モドキ 「俺は各方面の知人に多数の費用を使い、買い手を捜したが、無駄骨を折ったことになる!どうしてくれるんだ!」

といったクレームで半脅しにかかってきました。


支店長は慌ててモドキの対応に回りアタフタです。

ちょうどその時期、支店長は鬱病の自覚があり、彼は詳しい症状を支店長から出勤の車中で打ち明けられていたところだった彼はそんな支店長を見るに見かねて自分が矢面に立ちモドキとの折衝にあたることにしました。


ことは順調に進み妥当な線で手打ちができてやれやれと彼も支店長も胸をなでおろしかけたその時、突然モドキ殿の気が変わったのです。

欲を出したモドキは大声で怒鳴ります!

モドキ 「子ども扱いするな!」

といったん受け取った金を返却してきたのです。


これには彼も頭を抱えましたが支店長はさらに頭を抱え一言!

支店長 「もう駄目や!ハーちゃん、後たのむわ!」

支店長のこの発言は、なぜか彼の正義感に火をつけました。


彼はモドキ宅を訪ねる事にしました。


モドキの家を訪ねた彼は開口一番!

彼 「男子が一度承知した約束を反古にするとは貴方らしくもない。」

と諭すと、


モドキ 「何抜かすか!ボケ!頭冷やせ!!」


と冷静な彼に向かってもどきはカッカカッカしながら手ぬぐいで鉢巻した頭から湯気を打算ばかりに怒鳴り散らし、何のつもりか腹巻から白サヤのドスを出し、

グサリッ と床に突き刺しました。


・・・と思いきや刺した場所が板張りで、しかも中国製の段通が敷いてあったので、ドス自身突き立っているのがやっとでした。


それにかまわずモドキはまたもや、

「頭冷やしてかんがえ!」

と言い残して部屋から出て行きました。


彼は頼りなく突っ立っているドスを見ながら、子供時代育った漁村での近所の夫婦喧嘩を思い出しました。

近所の漁師の亭主は酒癖が悪く、夫婦喧嘩が始まるとすぐ台所から大きな出刃包丁と小魚用の小さな出刃包丁を持ち出し、

「殺してやる!!」

とふりまわし、女房が「殺せ!」というと出刃包丁を女房に投げつけていました。


彼は何度も出刃包丁が飛ぶのをみましたが、女房に当たったのを見たためしはありませんでした。


「殺してやる!!」

と女房にわめく場面を思い出しながら、自分もモドキに

「殺せ!」

と言ってやるかとドスに目をやりながら思いました。

が、頼りなさげに足っているそのドスをちょっと人差し指ではねてみると、ドスは

コロリ と倒れてしまいました。

そんなドスを見て彼は何だかバカバカしく思えてきました。


そしてモドキが戻り、

モドキ 「どや?ええ考えうかんだか?」

彼 「ええ考えかどうかわかりませんけど、とにかく銀行に帰ります。」

モドキ 「支店長によう言うとけ!」

と一喝したあと倒れたドスに目をやりましした。


彼 「銀行に帰る前に曽根崎警察所に寄っときます。」

モドキ なにぃ~!お前今なんて言うた?」

彼 「こんな話命がけでまとめるのん、嫌になりましたので曽根崎署にとどけることに     しました。」

モドキ 「お前アホちゃうか?!そんなことしたらお前のところの取引先や支店長に迷惑かかるのわからんのか?!お前も銀行におれんようになるでぇ~!ボケ!アホ!カス!!」

彼 どうせ私はボケ、アホ、カスです。ドスぶつけるなら当たらんようにたのんまっさ!ほな さいなら」

モドキ 「おっ!!ちょっと待てぇ!」

とモドキに呼び止められましたが、彼は見向きもせず出て行きました。


大通りに出て曽根崎警察署に向かって歩きだしたところでモドキに追いつかれました。

結局、彼の突拍子も無い行動に面食らったモドキは元の金額で合意に達しました。


そして彼は退職せずにすみました。

取引先も支店長も喜んでくれましたが、彼の気分は晴れませんでした。


そしてその後も彼は何回もヤクザモドキと対応することになります。。



支店長配属前の銀行内部の研修で、銀行業務の意識はただ単にタンスの引き出しに眠っているお金を大衆から集め、道路整備や工場建設に回すことで国の復興、発展に尽くすことにあると教えられ、ロマンとやりがいを感じて望まずしていいところに就職できたと紹介してくれた長唄の師匠に感謝しました。


しかしながらよくよく近頃の自分を見直してみると、何か日陰げの薄暗い路地でチョロチョロ動き回っているような自分の姿に嫌気が差し始め“退職”と言う言葉が一瞬頭をよぎっては消え、よぎっては消えと何だかモヤモヤとした日々を繰り返す毎日でした。



モドキとのやり取りの後、約3ヶ月ほどたった雨模様の或る日、支店長は業務部長、彼は神戸支店得意先係長の辞令を受けました。


赴任すると神戸支店長は彼を支店長室に一人呼び、

神戸支店長 「貴方は新規取引先の開拓が得意なようですね。神戸支店は古いしがらみのあるお取引先ばかりで、活気がありません。貴方に期待しています。よろしく頼みます。」

と握手されました。

そしてモヤモヤの彼ですが退職は一先ず延期することになりました。。。


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