音楽の神様(25)
強い力で両肩をもぎ取られそうになりながら廊下の奥に引き摺られてゆく。
ずっずずずず・・・澪は硬直したまま天狗を見つめていた。
(どこに行く・・・の)
目を閉じてしまいたかったがそれもできなかった。
この奥にあるのは滅多に使わない客間だけだ。
(こわい・・・みお食べられちゃうんだ・・・)
澪の瞳から熱い涙が盛り上がって乾いた口に塩の味が広がった。
暗がりが濃くなっていく中,天狗の白面が澪の頭上で無表情に浮き上がっている。
澪の喉が流れ込む塩辛い涙で湿り気を帯びた。
「かはっ・・・!!がっあ・・・っ」
むせこんだことでようやく息が出来るようになった気がした。
呼ばなくちゃ,澪は目をぎゅうっとつぶって叫んだ。
「お・・・にぃ・・・ちゃ!・・・おにぃちゃん・・・っ!おにぃちゃあ・・・!!」
たたた,と廊下を駆けてくる軽い足音がして,澪の両肩から掴まれる痛みが消えた。
「みお・・・?」海吏の声が廊下の先で聞こえる。
「おにぃちゃ,ん」澪は海吏に手を伸ばそうとして腕が上がらない事で泣き声をあげた。
両親がどたどたとこちらへ向かう音が聞こえてきて澪は更に大きく泣いた。