音楽の神様(14)
濡れたアスファルトが外灯に煌いている。
深夜の町並は澪の吐息すら拡声して聞こえるほどに深い眠りについているようだった。
財布も何も持ち出していないことを澪は後悔しつつ,全力に近い速度で極力静かに走ることに神経を注いでいた。今,タシタシと鳴るゴム底の足音だけで迷惑行為になりそうだ。
寮に戻ってからどうにかなるのが今なら分かるのに,財布が無いからと病院でタクシーを呼ばずに単純に走り出した自分の頭の悪さにしょげそうになる。
病院ならまだしも,町中で所持金が無ければ公衆電話も使えないというのに。
静かな町を気遣いながら30分足らず走る事を甘く見すぎていた。
そうして幾つも苛立ちまぎれにいかに自分がダメだったかをあげているうちに学校の塀に沿って走っていた。
暗く重苦しく佇んでいる夜の校舎の前を通り過ぎる。
寮までの道をどこに余力があったのか痛むわき腹を抑えもせず猛ダッシュしていた。
その痛み以外に何も考えたくない,という気持ちが働いていたのかもしれない。
一般寮に見向きもせず,生徒会寮へまっしぐらに駆けていく。オレンジの光がまだロビーに灯っているのが見えてきた。
階段を飛ばしてロビーの扉に手を掛ける。
今度は何の抵抗も無く扉を開けられた。
スニーカーを脱ぎ散らすのももどかしく寮内に転がるように上がりこんだ。
「奥晴・・・?!」
驚きの声を上げてロビーのソファから立ち上がった栗田の姿に,澪は口がかぱりと開いてしまうほどに驚いた。
(栗田,まさか・・・)
「何でお前がここにいるんだよ?」心に浮かんだ気持ちをおし隠し,澪は冷静になろうと努めて額の汗を拭った。