祭りの糸引き(7)


 島の顔は七不思議に巻き込まれたことを話す内に落ち着いていく。澪が口を閉じると腰の刀にそっと触れた。

「なるほどな。それでわざわざ伝家の宝刀,大雀(おおすずめ)が張り番ってわけか」

「ハリバン?」

「大事な大事な寺の跡取を護衛してるつもりなんだろーな。こいつ自身は実体じゃないみたいだけど」

どう見ても存在感のある刀に見える。澪は目を細めて島に訊く。

「どこらへんが偽もの?」

「偽物って言うか…本来,大雀はウチの寺の奥深くに封印されてるからな。出られるわけが無い。お前だって生きてる刀なんて出しっぱなしに出来ないだろ?」

澪は大雀に目をやってから,じゃあ,と島に首を傾げてみせる。

「どうして出てこられないはずの刀がここにあるんだよ?」

「だからそりゃ,ここがすでに現実から大きくハミ出してるってことなんじゃねーか…?」

島が表情を引き締めて辺りを見回した。その言葉に澪は目から何かが落ちた気がした。


「ここが――現実じゃない?例えば夢だってこと?」

「夢にしては規則じみてて矛盾が少ないよな。けど,現実なら大雀は絶対に寺を出られない」

絶対,澪は島の口から出た言葉を繰り返した。

深夜3時を回っているというのに澪の目は冴えている。

「島が時を渡るのにも刀が関係あるのかな?」

「うーん。俺に掛けられた呪いはおそらく…お前にも検討がついてるのか?」

「なんとなく今分かりそうだった…んだけど…メモッとけば良かった」

澪は頭の中に浮かんだ言葉が取り出せなくなったことに舌打ちした。

チリン

鈴が鳴る。

「そろそろ時間みたいだ」澪が残念そうに島を見た。

「そうなのか?」

島は澪の顔をまじまじと見つめた。

切れ長の目が黒目いっぱいに澪を映し出している。澪は急に落ち着かなくなった。

(もしもこれが夢なら確実にあたしの夢だ)
会いたい時に突然好きな人が目の前に現れるなんて偶然があっていいのだろうか。

「島,その…4月からヨロシクな…」

「ああ。お前には分からなくても俺は覚えててやるよ」

島は携帯を取り出すと澪の顔の前に掲げた。

ピロリン。

電子音と共に島の姿はかき消えた。


 ニャー…目覚ましを片手で止める。起き上がると島が部屋に居ないのをすぐに確認した。

だが,今日の夕方には戻ってくるはずだ。澪は念入りに歯を磨いて寝癖を直す。

きっと昨夜の島はこれから何度も時を渡ってしまい留年する程に授業出席数を落とすはずだ。

もう七不思議はその時点で始まっている。

だが,実害はその程度に過ぎなかった,とも言える。

「ダメだ…なんか」

何かが分かりそうなのに,消えてしまう。

澪はタンクトップを着込むとシャツに袖を通した。


食堂に降りると誰も居ないキッチンでコーヒーが良い香りを立てている。

澪はカップにコーヒーを注いで冷蔵庫から牛乳を取り出す。少し注ぎ足す。そうすることで飲み頃の味と温度になる。

一口啜ってからロールパンを口に咥えて新聞を取りにロビーに移動した。

ロビーでは良餡と冬木,東尾に瓦屋がソファに真剣な顔で向かい合って座り込んでいる。

澪は声を掛けるのを何となく躊躇した。近づいて頭を少し下げる。

「俺はてっきり…」

東尾が何かを言いかけてぎゅっと目を瞑った。4人の物々しい表情は澪の背にヒヤリと悪寒を走らせた。

「ど,どうしたんですか?」

「尚が…昨日の晩も帰ってこないから僕,ヒガを問い詰めて…」

良餡が澪の手を掴む。きゅっと熱の篭った手に澪は胸の中の不安が膨らんだ。

「俺は,てっきりキイロの家に居るものだとばかり思ってたんだ」

今朝になって島に確認の連絡を入れたところ木津が一緒に居ない事が判明したらしい。

「な,なんで島のところにいるって思ったんですか?」澪は東尾の真っ青な顔を見つめた。

「キイロの後を追ってく木津が窓から見えたんだ。キイロが寺に帰るのは知ってたから俺は頭でも冷やしに行くならそれもいい気がして」

「じゃあ,木津先輩ってば実家に帰ってるとかないですか?それか女の子とどこかに…」

澪はぞくぞくする背中を無視して明るい声を出そうとしてみる。

高校生といっても3年生ともなれば世間では2,3日帰ってこないことだって余裕である。

現に木津は当初から1泊くらいザラだったではないか。

「尚は実家キライだから…」良餡が有り得ないと目を逸らす。手が離れた。

澪の頭の中に木津の家族構成が蘇る。確か母親がマスコミにも騒がれるような著名コメンテーターだった。

海吏の口から木津が家族と不仲とは聞いた事が無かった。

けれど澪が来てから木津は一度も家族の話題に触れたことが無い。

「ここ最近状況は悪化してきている。居場所も知らせずに外泊の線は無い。あいつはそこまで軽率じゃない」

冬木がハッキリと否定する。

「じゃあ…そんな…」

言葉が出てこない。否定する材料を考えあぐねて澪は冬木の表情から探ろうとした。

しかしそこにあったのは最悪の事態を覚悟した顔だった。


 木津の捜索は島が戻ってきて少し状況が変わった。すでに1日が終わりへ近づいている時刻,午後10時になろうとしていた。

良餡の体は部屋で寝入っている。

「確かに木津には声掛けられたけど…なんかアイツちょっとそわそわしてて悔やみの言葉述べてすぐに校舎の方に消えたな」

「校舎の方?あの時間にか?」

瓦屋が身を乗り出す。訊かれて島が目を宙に向けた。思い出そうとしているのだ。

「…ああ。確かに校舎の方だった」ひとつ頷いてから瓦屋に答える。

そうしてから澪に顔を向けた。窺うようにじろじろ頭の天辺から爪先まで眺めて

「奥晴。お前何ともないのか?」無表情な声で訊く。

「は?どういう意味だよっ?何とも思わないわけ無いだろ?!心配に決まってんじゃないか!」

澪は毛を逆立てるようにして思わず立ち上がった。心外だ,と言葉を叩きつける。

「そういう意味じゃない」

冬木が澪の両肩をぽんぽんと宥める。

「お前なら何となく分かるんじゃないかってことだ」

「それこそどういう意味ですか」

瓦屋が鼻息荒く澪に鋭く目を向ける。

「なんのことだかコッチが訊きたいですよ!」

澪は口をひん曲げて見返した。

「ちょっと落ち着けよ」

東尾が間に割って入った。


 続く 祭りの糸引き(6) < >(8)


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気づけば七ですねー。。いつ文化祭になるんだっガクリ…なんか1週間が短い…そもそも1日が短い

そうだ公開で祝福を述べたかったんです!きまぐれ風見鶏 のF.Kikuiさんおめでとう~!!新年明けて良い事がある方もいます。皆さんにも良い事がありますように四つ葉