目を閉じて、あの日に戻る。
今季開幕戦。
ピーター体制2年目の始まりにワクワクしていた。
Jリーグのない週末はとにかく味気なく、やっと選手たちに会えることが楽しみだった。
浮き足立つ私は会場に向かう道中からもう楽しく、勝った気になっていた。なぜか負ける気などしなかった。
そして、甲府の地で開幕戦を戦う選手たちは躍動した。
目を閉じて、あの日に戻る。
千葉の空に刻んだ連勝の2文字。
手応えが確信に変わった。
毎年思っていた「今年こそ」が確信に変わった。
その時の私は知らなかった。
本気で、どうしようもなく、辛い辛い8連敗が訪れることを。
磐田に弾かれ、群馬で連敗の苦味を知った。その日、連敗の舞台となった夜空を見つめながら「まぁこんなこともある」と思ったことを覚えている。
その翌週、ホームを埋め尽くした1万人を超えるサポーターの脳裏に刻まれたのは屈辱の3失点。
開幕から感じた手応え。それが少しずつ、手のひらからこぼれ落ちる砂のように消えていった。
大宮の地で雨に染められながら見つめた、新指揮官の初陣。そして、私の心も言いようのない不安に染められた。
大丈夫か?というよりは、
どうした?どうしちまったんだ?
こんな言葉が感情を支配していた。
半休をとって栃木まで駆けつけた先でも、私の大好きな青白の侍達は項垂れていた。
金沢戦でやっと掴めると感じた勝利も、モンテを愛する全員が掲げた疑問符ですら押し返せない歪んだ事実によって、私たちのものにはならなかった。
8連敗。その日の私は、変えられない途方もない事実に背を向けながら、呆れるほどの酒を飲んだ。
「優勝するんじゃなかったのかい?」と、澱んで見えた部屋で1人呟きながら。
そして今、目を見開き、今を見つめる。
さぁどうだ。
今、私はあの日々をどう振り返る。
辛かった、しんどかった、泣きたかった、いや、ちょっと泣いていた。
降格なんて冗談じゃないぜ、と思った。
昇格なんて冗談でしかないぜ、と思った。
さぁどうだ。
今、モンテは何を見つめている。
屈辱の記憶。叩きつけた拳。流れた涙も、届かなかった声援もある。
だけど今、モンテは何を見つめている?
アウェーで栃木に負けた日は悪い夢を見ているようだった。
しかし試合後、私たちのコールリーダーは言った。
「背中押すしかないから。」
今思い返しても、あの時、栃木の夜空に響いた言葉を思えば鼻の奥がツンとする。
「青白の侍よ ともに戦おう」
ブーイングなんてなかった。
応援を止めるサポーターなんて、あの日のゴール裏には1人もいなかった。
ボロボロになるチームに、なりそうなチームに「大丈夫だ、大丈夫だ、俺たちがいるんだ。」と声をからすサポーターしかいなかった。
どんな時も、僕たちはモンテが好きだった。
どんな時も、僕たちはモンテの背中を押そうとしていた。
これからの残り2戦が終わった時に、僕たちの前に結果は鎮座する。
その時に僕たちの目の前にあるものは、次のステージへの扉か、途中退出を促す無機質な出口か。
そんなもの決まっている。全員でこじ開けよう。
シーズン中、山田拓巳という選手と話をした。
彼の言っていた言葉で、今も胸の奥の奥に刻まれている言葉がある。
「マジで、応援してくれるサポーターのこと勝たせたいんだよ。そのためにサッカー選手やってんだよ。」
サポーターのために、とか
サポーターの声援を力に変えて、とかじゃない。
僕たちは青白の侍たちが勝てるように必死に応援をしていた。
しかし、青白の侍たちは僕たちを勝たせるために90分を過ごしていた。
知らなかった。
考えもしなかった。
彼らは勝者になりたいだけじゃない。
応援してくれる人たちを勝者にしたかったんだ。
グッときて、慌てて上を向いた。
何事もないふうに言う彼の姿に、16年間削ってきたものの大きさを知った。
まずは目の前の勝利。
青白の侍たちが勝つために僕たちはまた声援を送る。
だから、僕たちも勝たせてもらおうじゃないか青白の侍たちに。
辛かったこともあった。苦しいこともあった。
だけど、やめたいとは一度も思わなかった。
モンテがある日常を愛している。
モンテが勝者になる日常を愛している。
さぁ行こう山形 勝利を掴め。
まずはいわきだ。
そこに勝利した先には、N Dを埋める最高のサポーターが待っている。
共に戦おう。
我らの誇りを、歴史に刻もうじゃないか。
そして今こそ、選手たちに届けようじゃないか。
「大丈夫だ、後ろには僕たちがついている。」
今こそ、今だからこそ。
僕たちも一致団結だ。
山形一丸だ。
前を見据え、上を見よう。
見せてやろうぜ、山形の底力。
山形にはモンテがある。
モンテには、そうだ、
僕たちがいる。
目指すべき場所へ、目指してきた全員と共に。
やっぱり今日も、僕は猛烈にモンテが大好きだ。
いわき戦、勝つぞ、必ず。