2010年に私は成人式を迎えた

 

「こいつ、俺のこと着ているだけで大人になった気でいますよ」

そんなことをスーツに言われていたかもしれないほど似合っていないそれを着て

当時の僕は憲ちゃんと一緒に成人式に出席した

 

幼稚園以来の再会となる女友達は

まさに晴れ着と呼ぶべき眩しいくらいの華やかさを身にまとい

この日が訪れた事実を楽しんでいた


 

その日は

今日はいよいよ成人式か、とか

ついにこの日が来たのか、とか

身が引き締まる思いだ、とか

そんなことは微塵も考えていなかった


 

みんなにとっても二十歳になったら来る日が

僕のところにも同じように来ただけで

 

来年二十歳になる人にも

来年、僕のところに来たようにやってくる


 

「今年が僕の番なだけ」

 

去年先輩に来た日の、その日の主役が

今年は僕なだけで

 

来年訪れるその日の主役は

後輩になるだけ

 

そんな気分だったと思う



 

少しの希望や緊張を胸に秘めていたのだろうけど

その感情は今思い出そうとしても思い出せない


 

その後の人生で

その時感じた緊張なんて

一匹の働きアリが運べる虫の亡骸くらい小さなものだと知ったから



 

しかし

節目節目の思い出は

頼んでもいないのに時間というやつが

勝手に大切な思い出へ変える


 

成人式に向かう私を見送る

何となくいつもと違う両親の嬉しそうな目も

 

久しぶりに女の子に話しかけられて緊張している憲ちゃんも

 

今思い出すと

私の中の大切な思い出へ変わっている




 

今年も

1月11日に

この国は成人の日を迎えた


 

しかし

その日の主役は

 

代々受け継がれてきた

 

「はい、今年の主役は君達ですよ」

という型に嵌まる主役ではなかったのかもしれない




 

しかし

時に物事は捉え方で大きく姿を変える



 

コロナ禍の中で迎えた成人の日を

主役として迎えた君たちという存在は

唯一無二だ


 

残したくて残す歴史では無いが

コロナ禍の中で迎えた成人の日の

まさしく主役だったんだ



 

忘れてはいけないのは

君たちは

たくさんの人々のおかげで

成人の日を迎えた


 

コロナ禍の中だけど

少しでも成人の日を感じてもらおうと戦ってくれた人たちがいる

 

オンラインであろうと、

ソーシャルディスタンスであろうと

それが最善だから

それを実現させるために戦ってくれた人がいる


 

そして

コロナ禍の中で懸命に戦ってくれている医療従事者の方々がいる


 

あげ始めたら終わらない多くの人が

成人の日を感じてもらおうと戦ってくれた事実に変わりはない





 

そして何より





 

君たちが

着慣れないスーツに身を包み、緊張した足取りで歩く日まで

晴れやかな笑顔に負けない晴れ着に身を包み、凛とした表情で歩く日まで


 

理不尽な世の中と戦い続けてくれた親御さんがいる



 

眠い目を擦りながら作ってくれたお弁当

アカギレにしみる洗剤に耐えながら洗った洗い物

反抗期という盾に隠れた君たちがかけた言葉に耐えた夕食どき


 

ストレスへ続くと分かっているのに乗らなくてはいけない満員電車

取引先の理不尽な要求に頭を下げて手にした給料


 

全ては

君たちのために戦った人たちの記録であるという事実は変わらない


 

そこに感謝をすることは

世の中を牛耳っているものが

コロナだろうが、ノロウィルスだろうが、鳥インフルエンザだろうが変わらない

普遍的なものだ


 

感謝ができない大人は

大人のふりをした子供でしかなく

 

かっこいいブランドものの財布を持っても

入れるお金が無いような中身のない大人になってはいけない


 

「ありがとう」

その言葉は大人が歩く道を進む

君たちの号砲だ






 

「今はできないこと」で

今の世の中は溢れている


 

しかし

「今しかできないこと」でも

今の世の中は溢れている



 

今成人を迎えた君たちの

今しかできない発想は


 

きっと

絶対

間違いなく


 

君たちの10年後を変える道標だ




 

今を嘆くことに今を使うのは勿体ない

 

過去を悲観するために未来を失うのは勿体ない

 

未来で笑うために今を使い

 

笑顔で死ぬために明日を生きよう





 

今君たちが抱える悩みなんて小さきものだ

 

これからは

そんなもんじゃない



 

しかし

 

これまで経験したことがないような嬉しいことだって

未来は抱きかかえて待っている



 

さぁ歩もう


 

振り返らず



 

今年

成人を迎えた全ての新成人に

そしてその日まで懸命に子育てと向き合い続けた全ての親御様に

 

最大限の賛辞を送ります







 

追伸

 

さぁお酒飲めるようになったんだから

コロナがあけたら酒飲み行こうぜ

 

私の成人式の夜は

お手本のように調子に乗り飲みすぎた結果

「ありがとう」は愚か

お母さんにすごく怒られた話をしてあげるから