マスクをしていると人は気を抜きがちだ。

 

女性であればメイクが手抜きになる。

男性だったら髭を適当に剃る。


 

手抜きはもはや、新しい生活様式の一環なのかもしれない。


 

かく言う私も

髭をしっかり剃らなくなり

肌荒れを放置しがちになり

 

そして何より

口臭を気にしなくなった

 

たまに訪れるそういう時だけ

リステリンを規定以上に使い倒し

ブレスケアをこれでもかと胃に流し込み

歯を2回磨けば済むことだ




 

しかし私は先日、それが元で警察のお世話になった








 

いつも通り仕事を終え帰宅する道すがら

ストックしていたウィスキーを昨晩で飲み切ったことを思い出した



 

「買って帰らなくては」

そう思いスーパーに寄り

ジョニーウォーカーさんを仲間に迎え入れた


 

レジ袋は有料

しかし、私はジョニーを一本買うだけだ

 

袋とレシートを辞退し

裸のままそれを持ってスーパーを出て

 

ジョニーを助手席にそのまま置いた

 

「もう少しで家だから待っていてくれジョニー」

 

そう心の中で問いかけ

私は家に続く道の上でアクセルに足を乗せた





 

今日は冷やしてある炭酸でハイボールか

いや、ロックで喉を熱くしながら今日起きた憂鬱とともに流し込むのも悪くない


 

そんなことを考えている時

 

目の前で

幾重にも重なるパトランプが見えた・・・・








 

時を9時間ほど遡る午後1時

 

空腹を知らせる腹からのサイレンを沈めるため

私はラーメン屋さんに入った


 

もはや最近は悩むことなく

ニンニク増しますか?の問いに対して


 

「お願いします」

と答える



 

その日は

溜まりに溜まったデスクワークを片付ける日であったため

午後はお客様に会う予定もなかった

 

だからこそ、尚更気を抜いていたのだろう


 

私は

息を整える系ガムを齧っただけで


 

ニンニクの主張を抑える工夫を全くしなかった・・・



 

時は再び

家まで直前となった場面に戻る




 

私の目の前で幾重にも重なるパトランプ

その前に立つお巡りさんに左に寄るよう指示をされる

 

善良な一般市民だ

 

その指示を守るため

ハンドルを左に切り

窓を開ける




 

「飲酒検問です。

マスクをとって息を吐いてください。」





 

やってしまった・・・・



 

もちろん飲酒運転などしていない

 

しかし、、、、




 

そう



 

私の口は

今、間違いなく臭い



 

しかし、ここで渋っては何かやましいことがあると思われかねない

 

いや、厳密に言えばやましいことがあるのだが

それは言うに言えない




 

大人しく

お巡りさんが持つ機械に向かって息を吐く



 

もちろん

その機械は飲酒を知らせることはないが

 

お巡りさんはフェイスガードの奥で

明らかに顔をしかめる





 

「お酒飲んでないですよね??」








 

飲んでない。

誓って飲んでない。


 

しかし、そうだ。

ニンニクの無慈悲な暴力が

お巡りさんと私の間を支配しているだけなんだ



 

「の、飲んでないですよ。。昼にニンニク食べちゃって。で、マスクだから、あれかなって。」



 

あれかなって

どれだ

 

って話なわけだが

 

そのときだった、、、





 

お巡りさんは目の前の口が臭い男が

飲酒運転の容疑者であることを決定づける物を見つけてしまう








 

そう

助手席のジョニーを








 

何かの点と点が明らかにつながった顔をするお巡りさんは


 

「もう一度息を吐いてください」

と言う


 

私は吐く


 

そして

お巡りさんはフェイスガードの向こうで

再び顔をしかめる



 

「いや、だから、ニンニクを食べてしまったんです。

口臭くてごめんなさい。」


 

「一応、免許証を見せてください。そして車の中を少しだけ調べさせてもらっていいですか?」


 

ニンニク臭いと

あれなのか、罪なのか?


 

飲酒運転は聞いたことがあるが

 

ニンニク運転は聞いたことがないぞ



 

そう思いながら


 

大人しく免許証を提示する



 

「助手席のお酒は?」

 

先ほどと明らかに態度が違う

お巡りさんの中で容疑者になっていることは明らかだ


 

「これは今日、これから飲むやつで、そこのスーパーで買いました。」


 

「レシートは?」




 

くそぉ、、、、

ねぇ、、、、




 

「無いです。。。。」



 

今になって考えれば

瓶は開いていないわけだから

私は明らかに無実なわけだが

もはや自分でも辻褄があいすぎていることに怖くなり

焦っている



 

しかし

悲劇というものは時に恐ろしいほど連鎖する


 

私のニンニク攻撃にやられたお巡りさんは

一緒に検問を行っていた女性警察官を呼んできた



 

セカンドオピニオン的なやつ!

 

とか言っている場合じゃない



 

その女性警察官は一切の感情を排除した顔で言う

「息を吐いてください。」


 

今年31才になった

 

楽しかった恋も

辛かった恋もたくさん経験してきた


 

しかし

自分がニンニク臭いと知っていながら

女性に

 

しかも初めてお会いした女性に


 

はぁー

ってやったことはない



 

心の隅っこでうなだれる

錆びかけたプライドにすらサヨナラを告げ

僕は初めて会った女性に向けてニンニク臭い口を開け

息を吐いた

 

はぁー








 

「ニンニクだと思います。」










 

やだ、もう恥ずかしすぎて死にたい











 

新しい生活様式というものは

なぜ僕に牙をむくのだろうか




 

あの日散った僕の錆びかけのプライドに墓を建てたなら

 

墓前にはそっとニンニクを供えよう