司法という権力のもとに
秩序は集い
平穏という果実をついばみながら
現代社会は流れていく
私は昨日
「あー疲れた」という
お手本のような独り言を発しながら
家に向かう車を運転していた。
そして
家までもう少し
本当にもう少し
24時間テレビのマラソンなら
完全に「負けないで」が流れ
徳光さんが泣き始めるくらい
もう少しの所へ来た時に
急ブレーキを踏んだ
一方通行の狭い一本道
細い道で街灯もない暗い道
道の真ん中に人が倒れている
顔から血を流して人が倒れている
「なっ!?」
という
まさに声にならない声を出しながら
急ブレーキを踏んだ
サイドブレーキをひき
慌てて外に出る
「大丈夫ですか!?」
すると
男性はこちらを虚ろな目で見つめながら
「大丈夫です」と呟く
しかし
まさに道路の真ん中に寝ている
「えーっと、、、大丈夫ですか?」
「はい大丈夫です。
気にせず行ってください。」
いや
通れねぇ
「あのー
そこに寝られてしまうと
通れないんです・・・・」
「ですので気にせずに
行ってください。」
いや
通れねぇ言っとるがな
もう
ここにきて気づいた
白橋は気づいた
おっさん酒くせぇ
汚い言葉を羅列しているが
もう
完全に目の前の男性が道路の真ん中で寝ている理由が判明している
すると男性は
道路を自力で転がりだす
要するに
道を開けようとしているらしい
道路を懸命に転がる男性を無言で見つめるしかない
白橋
頑張れと応援すればいいのか?
どんぐりころころでも歌えばいいのか?
いやそれは違う
すると男性がこちらを見て言った
「足をやってしまっているので、転がるのを手伝ってください、見ていないで」
いや、絶対にいやだ
もう
スーツはその男性の吐瀉物で汚れている
しかもこのご時世だ
大体なんだ、足をやってしまっているって
あなたが
足に何かやらせたんだろう
男性との
おソーシャルの
おディスタンスを
絶対に崩したくない
とりあえず
男性は2回転半くらいを懸命で転がり
道の脇には到着したため
その男性を追い越して
少し先で車を寄せる
放っておいて帰ろうかと思ったが
歩道で横になる男性の脇を
車が何台も通過していく
ガードレールもないため
万が一寝返りでも打ったら大変なことになる
「もー疲れてるのに」
という愚痴を吐きながら
もう一度
男性の元に向かう
「あの!ここで寝ていたら危ないですよ!」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないです。事故になります」
なんで疲れているのに
こんなことしているんだろう
と思いながら
だけど放っておいて
次の日事故にあったことを知ったら
など
いろいろな感情が回る
すると
「大丈夫ですか?」
と
自転車で通りすがった女性が
声をかけてくれた
これは
願ってもない援軍だ
八方塞がりの状況に一筋の光明
暗闇の中で一筋の街灯に照らされるその女性
マスク姿のその女性
綺麗な、、、、
目をしている。。。
あーあなたを待っていました
「多分酔っ払ってしまっているみたいで
さっきまで道の真ん中で寝ていたんです」
と状況を説明
男性は
「大丈夫ですから」
を繰り返す
するとその女性が
「交番でお巡りさん呼んできます」と
あー
出会いがこんな場所でなかったら
ソーシャルディスタンスを意識した
お食事でもどうですか?
なんて
声をかけかけようかと思うくらいの
いい人だ
お巡りさんという
この呼び方がいい
警察呼んできますじゃなくて
お巡りさん
って呼ぶ人
性格いいと思う
なんてくだらないことを考えていた。
女性が交番に向かっている間
寝ている男性と社会的距離を保ちながら脇に立ち
後続の車に、このご時世にベロベロになった男性が
道路で寝ていることをジェスチャーで伝える
すると
こともあろうに
あの便りが届く
そう
水を一日2リットル以上飲んでいるからこその便り
おしっこに行きたい
もう家はすぐそこ
しかし男性を放置するわけにはいかない
こうしている間にもお便りは届き続ける
水を大量に飲む生活をしている人は分かるかと思うが
お便りに気づいた時には
基本的にもう遅いのだ
手の施しようがないほどの驚くべきスピードで
そのお便りは無視ができなくなる
徐々に内股になる
しかし懸命に
歯を食いしばり
後続の車に手を振り続ける
日本男児の意地
そう私は尿意に負けず
手を振る
しかし。。。
おしっこに行きたい
徐々に内股の角度が厳しくなる
あー
おしっこに行きたい
すると
究極の内股で
手を振っている男性を見て
後続の車の一台が止まり聞いてきた
「大丈夫ですか?」
俺じゃねぇ!!!!!
しかし
暗闇に
急に
内股で手を振る男性が現れたら
誰でも心配になる
そこに
女性が帰ってきた
「交番にお巡りさんがいなくて、交番の電話で電話をしたら
すぐに来てくれるみたいです」
「そうですか。お疲れ様です。ありがとうございます。」
白橋は悩んだ
帰っていいのか、、、
もう膀胱の医療体制は逼迫をしている
しかし
夜も遅く
暗い夜道
女性と酔っ払って寝ている男性を置いて帰るわけにはいかない
おしっこしたい
おしっこしたい
「あの、大丈夫ですよ帰って。僕ここでお巡りさん待ってますので」
「いえ、私も一緒に待ちますよ。大丈夫ですよ。」
あー
もう
おしっこさえできたら
山形のラーメンの美味しさとか
山形のさくらんぼの美味しさとか
伝えて
一夏のなんとやらへの
号砲を聞く夜になったかもしれないのに
そんな余裕がない
「いやーびっくりしてしまいましたよ。まさか道路の真ん中に人が寝ているなんて」
「そうですよね、大変でしたね」
「いやー大変でしたよー・・・
本当に大変でしたよ」
という
ものすごいつまらない男になっていることにも気づかず
懸命に3分ほど待ち
お巡りさん登場
女性が
「あの人です。」
と寝ている男性を指差す
「通報をされた方は?」
「私ですけど、最初に見つけたのはこちらの方です」
と女性がこちらを指差す
「あ、通報した人だけでいいです。お兄さんは結構。」
なんと!?
「それは帰宅途中のことでした。
いやーびっくりしましたよ。
なんせ男性が倒れているんですから。
そこで私は迷いましたがね
車をおりてね・・・・」
なんてかっこつける予定も余裕もなかったけれど
そんな言い方することないじゃないのよ
するとお巡りさんが
私の一夏のお相手候補に向かって
もう
乱雑に質問を並べる
お名前は
年齢は
職業は
要するに
こんなことで呼ばないでくださいよ
的な態度だ
イライラと
膀胱の悲鳴に押し流されそうになりながら
お巡りさんに尋ねる
「もう帰っても大丈夫ですか?」
「はい。結構です。」
「ありがとうございます。」
なんで俺がお礼を!!!!!!!!
そして
女性にも一応お礼を言う
「ありがとうございます。」
なんで俺がお礼を!!!!!!!!
司法という権力のもとに
秩序は集い
平穏という果実をついばみながら
現代社会は流れていく
司法という権力に集っているのだから
道に寝ている酔っ払いを助ける手伝いをしてもらってもいいではないか
しかし
あの女性にまた会えたら言おうと思う
「あの日、私が踏んだのは急ブレーキでしたけど
あなたへの思いへはアクセル全開です」って
司法という名の下に裁かれるべき人間は
僕かもしれない
あの酔っ払いのおじさんの平穏な帰宅と
もう飲みすぎないことを願い
筆を置く
2020年8月5日
白橋 昌磨