東京の空は

 

見ているだけで気持ちが沈みそうな分厚い雲

意外なまでに透き通る青

スモッグの影に隠れて控えめに光る星


 

いろいろなものが見える。



 

しかし、例え似たような空であったとしても

 

暗い気持ちで一人で見上げる時と

友人と酒に酔いながら肩を組んで見上げる時と

大好きな人と手を繋ぎながら見上げる時と

 

その時によって、なんとなく違った空に感じるものだ。




 

それは記憶の中でも同じで


 

頭の中にいる記憶の管理人に向かって

あの時の星空を思い出させてくださいと頼んだら


 

その時の感情や

一緒にいた人

 

それらの付加価値的な情報によって

 

全体を青く染めたり

灰色のフィルターを挟んだりしているのかもしれない。



 

仕事で失敗した時の帰り道や

大好きな人に振られた帰り道の記憶に刻む空は


 

真夏のセミのようにうるさいくらいの青空だったとして

手をかざしたら吸い込まれそうな青空だったとしても

 

思い出した時は

なんとなく灰色になっているもので




 

仕事がうまくいった時の帰り道や

大好きな人と大笑いしながら歩く帰り道の記憶に刻む空は


 

質量を測ったらなんとなく重そうな曇り空だったとしても

反抗期に悪さした時に見た母親の泣き顔みたいな曇り空だったとしても

 

思い出した時は

なんとなく青空になっているものだ。




 

人間として生きる以上

限られた時間の中で

見上げる空の数も決まっている。


 

私にあと何回空を見上げる権利が残されているかは

分からない。

 

1回かもしれないし

 

100回かもしれないし

 

1000回かもしれないし

 

それよりもっともっと多いかもしれない。



 

しかし、

常に最後の一度だと思って空を見上げることができたら

きっと濃密で

幸せな人生を生きることができる。
























 

なんて、そんなことを日頃から全く思っていたわけではないが

 

私は今日

雲の切れ間から差し込む日の光に誘われて

 

空を見上げた





 

そして


 

かけられた



 

鳩に



 

小便



















 

てめぇ

絶対に許さねえ


 

という

アナウンサーだとしたら

絶対に使ってはいけないワードを

頭の中で

猛烈にリピートした





 

鳩のウ◯コ当たった

としたら

 

「運がついてますね。お後がよろしいようで。」

 

なんていう

 

尾崎豊が履いているジーパンくらい使い古された言葉を並べて

なんとか終えることができるかもしれない。



 

しかし


 

明らかに

 

小便だ。





 

再現するなら


 

ピチャッ



 

左手の甲に。



 

やっぱり


 

てめぇ

絶対に許さねえ

 

という感情が

元旦の護国神社の初詣客くらい

行列している





 

「やり場のない怒り」

と辞書で引いたら

これからは

 

日常がうまくいっていない男性がたまたま空を見上げたら

鳩に小便をかけられて茫然としている様

 

と記していただきたい。



 

そしてお手本のような


 

トゥルットゥー

 

と言う

誰もが思う「THE鳩の泣き声」を電線の上で決め込んでいる。




 

やられてもやり返せない

倍悔しい。













 

そして

やり場のない怒りを

どこに放出すれば良いか分からない私の上を鳩は飛んで行った。。












 

東京の空は

いろいろなものが見える。


 

しかし、例え似たような空であったとしても

 

その時によって、なんとなく違った空に感じるものだ。



 

仕事はうまくいかず

プライベートもうまくいかず

鳩に小便をピチャッとされた今日の日の空は


 

何年経って思い出しても


 

ヘドロにまみれた排水溝のように

洗濯したことを忘れて2日放置した洗濯機を開けた時のように


 

汚くて臭い空だ。



 

何がどう転ぼうが、あの鳩に「倍返し」は愚か

抗議すらできないことは承知しているが

 

私は今日の空を忘れないために

この屈辱忘れないために筆をとった。


 

なかなかうまくいかない日々の中で

鳩に小便をかけられた


 

簡略化すれば2行で済む話に

読者の方の貴重な時間を奪ったことに、心を込めて謝罪する。


 

どうか長いなどと言う抗議は

御法度だと思っていただきたい。









 

そう、鳩だけに。






 

私に対しての感情が

てめぇ絶対に許さねえ

に変わってしまった読者が

一人でも少ないことを祈りながら

この筆を置くこととする。


 

2020年7月20日

白橋 昌磨