デープインサイド 最終話 生きる道

ミサキ(15歳)記憶を失った少女 必死に過去を思い出そうともがき苦しむ

イズミ(35歳)ミサキの主治医 退行催眠の使い手

ケン(28歳)イズミの助手

スゲじい(75歳)ミサキが発見された幹線道路沿い付近自治会長

名無し看護師(40歳程 あっちゃん)ミサキの担当看護師

中年女性(65歳 小林さゆみ)スゲじいの死因に疑問を感じている面倒見が良い女性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ

精神科施設近くの幹線道路沿いで発見された「ミサキ」は鏡に映る「顔」を見て驚く。そこには見知らぬ「顔」を赤の他人が映っていた。次第に正気を無くす「ミサキ」そんな折、朝のルーティン。バイタルチェックにやって来た「名無し看護師」の口から思わぬ真相を聞く。「イズミ」、「ケン」医師達も「名無し看護師」も全部嘘。借金の為に集められた素人集団。雇い主は施設の経営者であり、闇の力を持つ人物だった。はたして「ミサキ」は無事、自分自身の本当の「顔」を取り戻せるか?物語は最終章へと貴方を誘う。

 

最終話 生きる道

 

幹線道路沿い雑木林からおよそ10分は走っただろうか、中年女性が運転する、真っ赤な車はシャッタ付きの車庫に入る。

「さあ、降りて」

言葉と共に、私を車庫の奥に備え付けてあるドアノブを回し家へと招き入れる。

どうやら、車庫から家に入れるようだ。

私の心は見透かされていたようで、「心配しないで、必ず助けるから。でも、私一人の力では到底無理。貴方が監禁されていた精神科施設のオーナーは闇深いのよ。噂の範囲でしか言えないけど、その名は政界にも通じている。同時に介護施設も併設されていて、そこで使う認知症の新薬の開発をしていた。まだ、認知症なんて言葉が主流になっていないころ、1960年代頃にもう施設は出来ていたらしい?ちょうど私が生まれた頃になるかな。これからの話、全て噂の範囲なんだけど。はっきりいうわね。あっちゃん(名無し看護師)とすげさん(雑木林でミサキを発見した自治会長、後に何らかの勢力に依って亡き者にされた)から聞いたの。あっちゃんは凄く苦労したの。貧しい生まれで、小さなころから働きづめ、挙句の果てに男に騙されて借金の返済を今でもしているの。貴方を発見した「すげさん」はこの村でゆういつ信用できる人物。彼も私も結婚はしていない。二人共割と裕福な家庭に生まれついたけれど、この村の異常さはなんとなく分かっていた。だから、結婚出来なかったのよ。貴方の育った児童養護施設も系列らしいわ。話が長くなってごめんね。まだ、名前言ってなかった。小林さゆみって言います。よろしくね。全力で貴方を守るから、すげさんとの約束だったから。すげさんの最後を見たのも私。口から泡をふかしていた。駐在さんを呼んだんだけど。彼もどうやら偽物みたい。心臓発作?心筋梗塞?で亡くなったって言っていたけど、それも嘘。この村は嘘で出来ている。疲れているかもだけど、これから週刊月光の方がここにやってくる。知っている事全部話してね、お願い。」

そこまで一気に話すと「小林さゆみさん」と名乗る中年女性はお茶を出してくれた。

「これ飲んで落ち着いてね。」

少しづつ口に含むと甘い香りが口いっぱいに広がり久しぶりに心が和んだ。

思えば、あの施設に収監されてから緊張感に満ちていた毎日だった。

「私、捨てられていたらしいの。児童養護施設の前で、小さなころから食べ物、飲み物に薬が入っていたらしい、看護師さんが言っていたけど、このお茶の香りに近いもの知っているような気がする、美味しい。」

「ほめてくれてありがとう。」

「いいえ、こちらこそ、ありがとうございます。なんか図々しい話し方失礼しました。」

「きちんと、お話出来るのね、そんな堅苦しく考えなくって良いのよ。これから来る記者さんにも気軽に話してね。無理に思い出さなくて大丈夫。知っていること、覚えていることだけ話してくれれば良いの。」

記者が来るってどういう事?

戸惑ったが、今まで感じた事の無いような、穏やかな時間が過ぎて行った。

だが、その貴重な時は玄関のベル音で急変した。

二人の若い男性が小林さゆみさんと共に私の座っているテーブルの前にやって来て、スーツの内ポケットから名刺を出し、「週刊月光のヤマキと申します。私はサヤマです。ミサキさんですね。ご無事で何よりです。疲れていらっしゃる所申し訳ありませんが、今まで経験されてことなんでも良いのでお話して頂けませんでしょうか?」

優しく微笑む二人だったが、緊張感は徐々に高まっていく。

残りのお茶を「ゴクリ」と飲み干し、やっと話す気になれた。

ヤマキと名乗る記者は小さな縦長の機械の赤いボタンを押した。

「録音させて貰うよ」一声つぶやき、私は「こくり」頷いた。

ゆっくり、記憶を辿りながら話していった。

「私は、この近くの児童養護施設で育ちました。小さな頃から物静かで争いを好まない性格…。徐々に私は大人の顔色を伺うように育っていきました。いつもお世話になっていた看護師さんや助けてくれた小林さゆみさんの話では、小さなころから食べ物や飲み物に記憶を曖昧にする薬が入っていたらしい?私の味覚では何らおかしなことは感じなかったけれど。確かに自分の存在を確かめずにはいられない。気が付くといつも鏡に向かっている。そんな時間が多かったと思います。他の子達の様子までは気に止めていなかったですが、ともかく、自分自身を確認せずにはいられなかった。あの日、幹線道路沿いの雑木林で倒れてた記憶は全くありません。気が付くと、施設のベットの上でした。そして、「イズミ」先生、「ケン」先生、看護師さん達がやって来て、交代で私の世話をしてくれました。他の方が私の病室にやってきたことはありません。そして、必ず、朝一錠だけ、白い薬を飲まされました。不安になったので、看護師さんに聞いたら「不安感を抑える薬」って教えてくれて、薬を飲まされました。それと、「イズミ」先生の退行催眠療法、先生の研究室から入れる隣りの部屋に設置してあるベッドの上で円錐形の光るペンダントを揺らして、私に目を閉じて記憶をさかのぼる様に言うと鏡に映っている自分が本当の私の上に馬乗りになって「貴方の顔大っ嫌い」って言ってました。ここでいつも自然に涙が流れてきて、気分が高揚し、先生の治療は終わりました。やがて、薬が白から青に変わって?やたら混乱するようになってきました。、ナースコールを押す回数も増えて。そして、看護師さんから真実を聞き、小林さゆみさんの家に逃げ込んだ形で現在に至っています。」

「理路整然と話すね。まるで他人の事を語っているみたいだ。」

ヤマキと名乗る記者はじろりと私の顔を見た。

「可笑しいですよね。幼いころから他人の中で育ったせいかもです。でも、こうやって話を聞いていただくと、段々と気分が晴れて来ます。」

「それは良かった。じゃ、逆に僕らが把握している情報を話よ。君が育った児童養護施設も今まで囚われの身になっていた精神科施設もここら一帯を牛耳っているある人物の所有下にある。かなりの高齢でもう時間が無い。彼の目的は痴ほう症を発症した患者をいかに長きにわたって施設にとどまらせるか。つまり、言葉は悪いが、「生かさず、殺さず」の状態で国からの補助金を着服する事。また、その利益で高利貸しもやっていた。政界にも幅を利かせる程の人物で、反逆する者は徹底的にやられた。君を見つけた、豊臣菅由(とよとみ すげよし)さんも彼らの手によって殺されたと思う。彼は自治会長をやっていて、この辺りの事情をよく知っている。おそらく、あの人物がやっていた悪事にも薄々感づいていたはず。ここら辺で彼に逆らえる者はいない。だが、豊臣さんと小林さんだけは違っていた。お二人は幸い家が裕福だったので彼のいう事を聞く必要が無い。しかし、君を発見したのが豊臣さんだったのが計算外だった。おそらく、雇われた人物が精神科施設に連れていく予定だったんだが。一足先に豊臣さんに発見されてしまった。豊臣さんは「特に変わって様子が無かった。」と事情聴取で話していたが、何か知られてはならない真実に気付かれたんじゃないだろうかと思われ殺された。豊臣さんは色々と小林さんに話をしていたんだ。そして、君が幼いころから飲まされていたと思われる、薬剤については児童養護施設の職員さんからの情報が我々に上がって来ている。精神科施設で君が飲んでいた、白や青の錠剤についても看護師の証言が得られている。後は、記事に載せるのみ。君の証言が欲しい。話してくれた事全て記事にしていいですか?」

「宜しくお願い致します。」

小さくつぶやくのが精一杯だった。

疲れが出てきたようだ。

二人の記者が出ていった後、布団を敷いてもらい横になった。

いつの間にか深い眠りに入った。

台所でさゆみさんが夕ご飯を作ってくれている。

今まで記憶に無いような暖かく柔らかな香りが鼻孔を貫く。

「起きたわね。遅くなったけど夕ご飯食べましょ。」

テーブルの上に沢山のおかずと暖かいごはんが盛られている。

どれもこれもとても美味しそうで…。

知らぬ間に涙が頬を伝っていた。

「ありがとうございます。」

「気取らなくて良いのよ。自分の家だと思って楽にしてね。」

「私、自分の家が無いから…。」

「ごめんね。ともかく食べて。」

美味しかった、今まで食べたことが無いほど、美味しかった。

お腹が落ち着くとトイレに行きたくなった。

トイレの脇に鏡。

思い切って覗くと、そこには私自身の姿が映っていた。

もう、私?に馬乗りになって、首を閉めていた「顔」では無かった!

急に回りが明るくなってきて、そこには一本真っすぐな道が通っている。

暫く、小林さんの家で過ごしていた、ある日、一冊の雑誌を彼女は渡してくれた。

週刊月光の表紙に「施設と製薬会社の癒着」と見出しに大きく載っている。

○○県○○町の市議会議員○○氏は自ら傘下にある介護施設、精神科施設、及び児童養護施設で悪質な薬品を用い、利用者の記憶をつかさどる海馬に直接影響を与える薬剤を了解無しに勝手に飲ませ精神混乱を起こさせた。また、その逆に記憶を取り戻すことが出来る作用のある薬剤も同時に開発し、その薬も同じ人物に投与し、悪しき人体実験をしていた。人権団体から猛烈な抗議が○○氏に直接届けらるに至った。痴ほう症や精神疾患、記憶喪失状態の患者に投与し続けると、長期にわたり、混乱状態が続き、また、回復するという繰り返しの状況が患者に起こり、結果、政府からの補助金を貰い続けた。○○県の衆議院議員を通じ、多額の資金を集めていた事実も発覚した。傘下の児童養護施設職員の証言では、ある一定の児童たちに対し、食事や飲料に薬剤を混入した。○○氏に借金があり、逆らえなかったとの話。警察庁も当社記事によって動かざる負えない状況だ。」

そのような内容が書かれていた。

しかし、何故、幹線道路沿いの雑木林に連れていかれたのか?

その疑問だけは残っていたが、徐々に記憶がよみがえる。

あの日、何時ものように夕食を済ませると、急に眠気に襲われ、そこで記憶が無くなった。

気が付くと精神科施設のベッド上。

おそらく、新薬開発の人体実験がなされていた精神科施設に私を連れていく必要があった。

私の意識が戻るのを懸念して雑木林に置いていき、○○氏に雇われた第三者に発見させる手段だった。

持ち物が無かったのも、記憶が蘇るのを阻止するため。

全て、お芝居だった。

けど、愛犬と散歩中の「すげさん」が先に雑木林で倒れている私を見つけてしまう。

「すげさん」に何か気付かれたと思い込み亡き者にする算段となったに違いない。

そして、想像以上に私の神経は混乱をきたす。

新薬開発の人体実験は成功を納める。

だが、名無し看護師の謀反により、真実が世に晒される運びとなる。

私の身体は少しづつだが快方に向かい、今では鏡に映る自身の「顔」にも違和感なく過ごせている。

これからは、普通の高校生として、生きてみたい。

心の底から思っている。

終わり

最後までお読みいただきありがとうございました。

ソデッチでした。